特別講義要旨

廣瀬絵美 (順天堂大学)「イギリスのバラッドにおける変遷と発展」

加藤彩雪

 12月22日(木)の「ヨーロッパ研究入門C II(イギリス文学と芸術)」の授業では、順天堂大学の廣瀬絵美先生をお迎えして、「イギリスのバラッドにおける変遷と発展」というタイトルで講演を行っていただきました。この授業は、イギリスの文学史を文化・歴史的背景と連動させて学ぶ授業ですが、「音楽」に注目するのは今回が初めてとなりました。音楽というとドイツやオーストリアなどヨーロッパ大陸が連想されることが多く、イギリスの文化史において音楽はそれらの地域に比べると言及されることが少ないのが事実です。しかし今回はバラッドに注目することで、イギリスにおいて音楽がその伝統の確かな礎になっていることを学ぶことができました。
 廣瀬先生はまず、バラッドとはどのような音楽なのか、その定義を伝えるところから授業を始められました。人々の口承を通して今日まで息長く伝わるバラッドには、同じ歌でも多様な種類があり、そしてそれらが「物語」になっていることを教えていただきました。例えば、スコットランド民謡「バーバラ・アレン」(“Barbara Allen”) は切ない恋の物語ですが、これには様々なバージョンが残されています。授業では、それらを聞き比べることで、同じ物語が歌われているにも関わらず、その印象がバラッドごとにいかに異なるかを実感することができました。また、穏やかなメロディーに乗せられて時に残酷な物語や事件が歌われる点には、この授業で取り上げたイギリスの伝承童話である『マザーグース』(Mother Goose) との共通点も感じられました。
 さらに、イギリスのバラッドがアメリカに渡っていったことにも話が広がりました。イギリスの音楽がアメリカという異なる地域に伝搬されると、そこで新たな根を生やし、新しいバラッドの形態が生み出されたことを知りました。また、現代の日本のポップスにもバラッドが影響を与えているということも教えていただきした。地域横断的なバラッドの歴史は、比較文化学部の学生にとって非常に興味深く感じられたのではないでしょうか。
 先生のご講演の後は質疑応答が行われましたが、これまで授業で学んだ知識を生かしながら、学術的な鋭い質問が飛び交いました。非常に充実した90分間となり、皆にとって思い出に残る1日になったと思います。