赤松ゼミ

スマートシティ開発の日中比較

米山優香

 本稿では、中国のスマートシティが急速に推進され、発展している要因について、中国の都市計画の在り方、街づくりの思想に焦点を当てて分析を行い、考察した。そして、日本のスマートシティ開発と比較し、文化の「違い」を考慮しながら中国のスマートシティ開発事例から学べる点や課題について検討した。
 第1章では、主に日本における「まちづくり」と「都市計画」の歴史的展開について辿り、似たようなものだと捉えられがちな「まちづくり」と「都市計画」の異なる点や関係性について考察した。都市計画の歴史は長く、その計画された土地に住む人々が主体となっていき、のちに誕生したのがまちづくりであるとわかった。
 第2章では、中国のスマートシティ開発の動向について見てきた。建設中の事例から、中国スマートシティの発展を推進している主体は中央政府であること、スマートシティ開発にはIT大手企業と政府(特に地方政府)の深い繋がりがあることが明らかとなった。都市計画史について見ていくと、現代の中国の都市計画法は経済建設が目的となっていること、都市の土地が国有であるため私有財産たる土地の開発行為を制限する必要がないことや、戸籍制度の存在など、日本の都市計画とは根本的な違いが存在することがわかった。そして中国のスマートシティは、国内需要の創出、地方政府による住民の管理、そして中国特有の農村・都市の戸籍問題を解決するためのものであったと分析した。
 第3章では、日本のスマートシティ開発の動向について見てきた。初期段階のスマートシティは特定分野、省庁・企業ごとに限られた取り組みであったが、世界の流れに影響を受け、暮らしに関わる複数の分野に最先端技術を用いながら官民が提携して取り組むよう変化してきたことがわかった。しかし現状は、政府のスマートシティ推進のための施策は思うように機能しておらず、依然、官民連携・分野横断的な連携体制を模索していくことが必要だとわかった。また、国内で個人情報の取り扱いに対して抵抗感を抱く事例もあり、プライバシー保護にどのように対処していくかが日本型スマートシティの普及可能性を左右すると思われる。
 本稿では中国のスマートシティが短期間で成長してきた理由について明らかにしたうえで日本との比較を行った。複数都市への展開を前提としたデジタルプラットフォームを備えた中国型スマートシティが、途上国・新興国にも展開を開始していることから、分野横断的な施策が課題の日本でも参考にすべき部分であると考えた。一方で、中国のスマートシティ構想に欠けているものは、そこで生活する住民の意志、思い、人権である。日本の「まちづくり」のような住民自治の在り方を補うことで、より良いスマートシティになっていくのではないかと考える。ウィズ・アフタ―コロナの時代においてはスマートシティ化が重要になるため、日本も中国などの先行事例を吟味して取り入れ、日本社会に適応する持続可能な未来都市を創造していくことを期待したい。