上野ゼミ

イギリス女性参政権運動に参加した男性たち

秋庭由佳

 本論文では、イギリスで19世紀から20世紀にかけて起こった女性参政権運動の概要と運動に参加した男性たちについてみていく。
 第1章では、イギリスにおける女性参政権運動はどのように始まり、どのように終わりを迎えたのかみていく。運動は穏健派の「女性参政権協会全国同盟(NUWSS)」と過激派の「女性社会政治同盟(WSPU)」という2つの団体が中心となり展開したが、それぞれの団体がどのような考えを持ち、どのような活動をしていたのかについてみていく。また、この2つの団体が共通して行っていた、「行進」にも焦点を当てる。第2章では、女性参政権運動に反対した女性たちについてみていく。彼女たちはなぜ女性が参政権を得ることに反対していたのか、またどのような活動をしていたのかについてみる。
 第3章では、女性参政権運動に参加した9人の男性たちを取り上げて詳しく見ていく。女性参政権運動に参加したことで社会的迫害を受けた男性もいた。そのようなリスクを背負っている中で、彼らはどのような考えをもち運動に参加していたのか、どのような活動を行っていたのかみていく。そのうえで、男性活動家たちがなぜ女性参政権運動に参加したのか、そしてそれはどのような影響を与えたのかを考える。
 女性参政権運動に参加した男性たちは、独自の男性活動団体を結成し、その中でも活動が目立っていたのは、「女性参政権男性連盟」(MLWS)と「女性の選挙権付与を求める男性政治同盟」(MPUWE)という団体だった。MLWSは、立憲主義のもとあらゆる女性活動家の支援を行い、その活動は非戦闘的なものであった。MPUWEは反政府政策を誓約し、WSPUと結びつき、戦闘的な活動を主に行っていた。
 このような男性たちの活動は、時に女性活動家を悩ませたが、講演依頼が来ていたことや、おそらくパートナーという意味合いでWSPUの「プリンス・コンソート」と呼ばれていた男性がいたことからすると、この運動にとって大切な役割を担っていたと考える。男性の支援は女性参政権運動にとって重要だったのではないかと考える。
 男性たちがなぜ参加したのかという疑問に対して、日本の先行研究では、「男性サフラジストの大多数が、家族関係から女性参政権運動に参加するに至ったことは確かであろう」とされていたが、本論文ではイギリスでの研究成果を確認し、様々な参加理由を発見することができた。彼らの女性参政権運動への参加理由は、家族関係のみでは説明できないものであった。具体的に見ていくと、女性を男性の支配から解放し、男女平等を目指すためであったり、女性の権利や尊厳について人々に再考させるためであったり、宗教や道徳の改良のため、帝国主義や軍国主義の終焉のためなどの理由があった。これらの理由から、参加した男性たちは「イギリスにおける、より良い社会の実現」を目指して運動に参加していたのではないかと筆者は考える。