米塚ゼミ

ビール売り子というアイドル ~ブランディングが生んだ球場の華~

清水香月

 あなたは野球場で働く「ビールの売り子」をご存じだろうか。
 日本のアルコール消費量が年々減少していく中で、野球場のアルコール売り上げは右肩上がりを続けている。さらに全体のアルコール販売数のうち約7割が売り子での売り上げで、こちらも右肩上がりを続けている。この売上上昇の立役者である「ビールの売り子」とはどのような仕事なのか、何が観客を魅了しているのだろうか。
 本研究では、野球場やサッカースタジアムなどのスポーツ観戦に来た観客に対し、観客席でビールを売り歩くことをビールの売り子の基本的な仕事とする。
 先行研究では、ビール売り子の基本的な仕事内容はもちろん、安定的に売上を出すトップ売り子の販売戦略について詳しく研究されていた。しかし、売り子を観客はどう見ているのか、なぜ売り子からビールを購入したいと思うのか。というような売り子を客観視した研究例はない。また、近年「ビールの売り子」を特集したメディアの増加や、元売り子から芸能界入りしたタレントの事例など「ビールの売り子」の注目度は上昇しているが、その割に先行研究が非常に少ない。そこで本研究では主観的な視点、客観的な視点、売り子が他の環境に与える影響など、様々な角度から研究し、「ビールの売り子」の実態に迫る。売り子に関する先行研究や、売り子を取材した記事、さらにはアイドルやキャバクラ嬢など他職業の研究にもヒントを得た。また、筆者も実際に4年間売り子を経験した身である。筆者の経験談や、実際の観客への調査も交えながら独自調査を行った。
 その結果、近年のビール売り子の在り方には変化があり、その変化がアルコールの売上上昇や売り子の注目度に関わってきていると推測した。変化の正体を明らかにするうえで、3つの重要なポイントがあると考える。1つ目は観客との関係とそれを利用した派生ビジネス。2つ目はアイドルやキャバクラ嬢との共通点。3つ目は売り子とジェンダー。売り子の主体の目線や現状に加え、この 3点から、「ビール売り子」がただのビール販売員というアルバイトから、「ビール売り子」という名のアイドルに変化していることがわかった。アイドル「ビール売り子」となるまでの過程の中で、売り子たちは売上のための「自己ブランディング」はもちろん、売り子を取り巻く環境を利用した外部からの「ブランディング」により、ビールの売り子たちは「商品化」されたのである。
 こうして売り子たちは、自らの売り上げを上げるとともに、多くの観客にビールと楽しみを与え、球場全体の売上に貢献した。また、この変化は売り子自身の能力や将来の可能性をも広げることに繋がった。
 ここでの研究は、売り子の先行研究や筆者の経験談、インタビュー記事、その他参考文献をもとにされているため、球場によって情報が異なる場合がある。また売り子の販売品目はビールに焦点を絞って研究したことから、その他の販売品目を売る売り子については、本研究では売り子として一概に研究できなかったことが本研究の課題である。