江頭ゼミ

現代日本における男女の会話スタイルの一考察

関ゆうむ

 日常生活において会話は必要不可欠である。この時、男女によって会話の特徴が大きく違うことがある。例えば「なぜ男性は批判的に物事をいうのだろう」や「女性は共感ばかりするな」という疑問を持つこともしばしある。この疑問を解決するべく、約30年前執筆された、アメリカの社会言語学者であるDeborah Tannenの男女の会話の分析をもとに研究を進める。
 この研究を進めるうえで、2022年における男女別会話スタイルについて分析を行った。加えて、30年前にTannenが提唱した会話スタイルの地位と意義について検討した。
 “You just don’t Understand”(『分かりあえない理由』)において、Tannenは「類似性」や「共通体験」を示すことにより、「和合」を築こうとする女性の会話スタイルを「ラポートトーク(rapport talk)」、「知識」や「技術」を誇示することにより、「地位」を築こうとする男性の会話スタイルを「レポートトーク(report talk)」とした。そして、“Talking from 9 to 5(『どうして男は、そんな言い方 なんで女は、あんな話し方―男と女の会話スタイル9 TO 5―』)では、会話スタイルを男女別にさらに6つに細分化した。女性は「『親和』を築こうする」「対等を重んじる」「相手や周囲と同質性を強調する」「協調的・平和的な姿勢をとる」「感情を重視する」「間接的な表現を使う」会話スタイルを、男性は「『地位』を築こうとする」「上下や優劣を競う」「自らの独自性を強調する」「対立的・攻撃的な姿勢をとる」「情報を重視する」「直接的な表現を使う」会話スタイルを用いるとしている。
 このタネンの主張が、現代の日本人の男女の会話の中にどの程度見出すことが出来るかを確かめるために、身近な男女の会話を収集し分析を行った。その結果、タネンの分析と一致、不一致が観察された。タネンの主張との不一致点として、男女の会話において、男性が女性の、女性が男性の会話スタイルを取ることが挙げられる。これについては、スピーチ・アコモデーション理論によって説明ができる。この理論は、会話スタイルの変化は会話相手との心的距離の収縮に関連すると主張する。つまり、男女の会話において、男性が女性の会話スタイルに、女性が男性の会話スタイルになるのは、互いに心的距離を収縮する場合に起こるのである。
 タネン分析の一致点としては、男性が「対立的・攻撃的姿勢」を取る点、女性が「周囲との同質性」を強調する点があげられる。この点は、要因は遺伝子とホルモンが関係する。男性ホルモンであるテストストロンやアンドロゲンは攻撃性を持ち合わせている。テストストロンやアンドロゲンの分量が多いことで、相手に攻撃的になり、対立性がもたらされる。つまりテストストロンやアンドロゲンの分量が多い男性はタネンの提唱する男性の「対立的・攻撃的な姿勢をとる」会話スタイルにつながる。逆にテストストロンやアンドロゲンの分量が少ない女性は相手は「周囲と同質性を強調する」会話スタイルを取るということになる。
 この研究により、タネン理論は正しいとも間違っているとも言えないという結論が得られた。なぜなら遺伝子やホルモンはTannenが執筆した30年前と現在、そしてこれからも大きく変わることがなく、その観点から見るとTannenの分析は正しいことになる。しかし環境や関係性が一人ひとり違うなか、話し方や会話スタイルを枠組みに当てはめて統一するのは難しい。相手に合わせて話し方を変えることは少なくない。しかし、男女によって会話スタイルが違うという認識を持っているだけで、「なぜ男性はあんな言い方なんだろう」や「女性は共感ばかりだな」といった疑問を持たなくなり、円滑なコミュニケーションが可能になるだろう。