城殿ゼミ

ハリウッド映画にみるアジア人表象

西澤美伶

 本論は、ハリウッド映画に登場するアジア人が型にはまったイメージで表象される点に着目し、そのようなイメージはいつから定着したのかを明らかにしようと考え、サイレント期から現在までを振り返り、それぞれの時代を代表する映画を中心に、映画作品を経済や政治状況と紐づけながら、アジア人描写の変化を論じた。
 第1章では中国人移民と日本人移民の流入から排斥までの歴史を論じた。彼らの歴史を振り返ることで、それが白人にどのような影響を及ぼし、どのような背景があって彼らが異質な存在として排斥されていったのかを明らかにした。
 第2章ではサイレント期から1980年代までのハリウッド映画に登場したアジア人の描写について論じた。まずサイレント期におけるアジア人は悪役として登場しており、その役が与えられた理由を、アジア系移民の流入に際して流布した黄禍論を交えながら論じた。具体的には『チート』と『散りゆく花』の2作品に登場するアジア人が残忍に描写されている場面を取り上げ、その描写にはどのような意味が込められているのかを明らかにした。
 1930年代におけるアジア人は、悪役ではなく正義の味方である探偵として表象された。なぜこの時代のアジア人は悪役ではなく善人として登場したのか、B級映画の流行と交えながら論じた。具体的には『チャーリー・チャン』と『ミスター・モト』の2シリーズを取り上げ、これらのアジア人男性の外見や口調・仕草はどのようにパターン化され、単純化していったのか明らかにした。
 第二次世界大戦中は、日本人が醜悪な敵として、また中国人が戦友として登場した。具体例として『パープル・ハート』を取り上げ、いかに日本人を残忍で悪魔的な敵として描写したのかを明らかにした。
 戦後はアメリカ男性と日本人女性の恋愛をテーマにした作品が多く製作された。具体的には『東京暗黒街・竹の家』を取り上げ、作品に登場する日本人女性がどのように描写されたのかを論じた。また日本人女性の相手がアメリカ人男性であることの意味を明らかにした。戦時中に比べて映画に登場する中国人男性と日本人男性の存在が希薄になったことから、その理由についても言及した。
 1980年代に入ると日米貿易摩擦が生じたが、映画作品の背景として、日本がどのようにアメリカへ進出していたのかを論じた上で、『ブラック・レイン』と『ガン・ホー』の2作品を取り上げ、日本人がアメリカを脅かす存在として、また異質な集団として描かれていることを明らかにした。
 第3章ではアジア系アメリカ人が行った社会的な抗議活動を取り上げ、それがアメリカ社会にどのような影響を及ぼしたのかを論じた。同時に、現在もアジア系の役を白人が演じ、アジア系人種に対する偏ったステレオタイプも残存していることから、なぜそのようなイメージがなくならないのかを明らかにした。またアカデミーでは多様性を重視した動きが見られることから、今後アジア系の人々はどのように活躍していくのかを考察した。