石川ゼミ

「幼児教育と多様性についての考察――絵本と読み聞かせの効果を中心に――」

土屋知奈美

 近年、性的マイノリティの方々に対する配慮や多様性の尊重については国際的に理解が進んでいる。本論文では中でも幼児教育、特に絵本に注目し、絵本自体や幼児期の絵本を用いた教育が、その後の多様性への理解にどのような影響を与えるのかについて論じた。
 第1章では、幼児教育に関する法律と制度を取り上げた。第1節では、幼稚園、保育園、認定こども園に置ける法律、制度を取り上げた。その結果現在の日本では、個人の尊重という考えはあるものの、多様性への理解は薄いことがわかった。第2節では、多様性に関する現場での取り組みとして、日本と海外の事例を取り上げ、海外では国として法律や制度が整っており教育体制ができている一方、日本ではあくまで地方自治体の判断であり、取り組み事例も数少ないことがわかった。
 第2章では、読み聞かせの効果について取り上げた。第1節では絵本環境の構築とし、幼児教育の場においてどの様な絵本環境があるのか、また保育者が絵本環境についてどのように考えているかについて取り上げた。結果として、幼児が絵本を手に取りやすい環境は作られていたが、保育者はあまり絵本による教育を重要視していないことが分かった。第2節では、読み聞かせの意義を取り上げた。幼児に対し絵本を読み聞かせるということは、発達や教育にどのような効果があるのかについて論じた。保育者や保護者が読み聞かせを行うことで、単なる文字や絵、物語の内容だけに対する学習だけでなく、「ふれあい」や「興味」など様々な分野においての効果が期待できることがわかった。
 最後に第3章では絵本と多様性との関わりとして、日本で幼児教育に用いられる絵本には多様性の理解があるのかについて論じた。第1節では、絵本がもたらす多様性への意識とし、絵本が幼児に対し多様性の意識をどのように構築していくかについて論じた。幼児は、日々の楽しみや日課として絵本に触れていくうちに絵本の隠れたメッセージも理解していく。それが性別役割分業意識や、多様性への理解に繋がることがわかった。第2節では実際の日本の絵本ランキングを取り上げ、そのうちの幼児対象の絵本にはどのような表現が用いられているのかについて実際に調査を行った。結果として多様性を主なメッセージとして取り上げたものはなく、一方で男言葉や、女言葉、色での性別分けなど、性別による分け方を行うような事例は多く見られた。第3節では、多様性をテーマとして描かれた絵本を取り上げ、どの様なメッセージが込められ、表現されているかについて論じた。そして、男女だけでなく、様々な生き方を尊重することが明らかに描かれている点に、子どもたちにも多様性を尊重しやすくする工夫が感じられた。一方で、日本が原作の絵本はなく、どれも海外原作の翻訳絵本であった。この点に関しては、日本の多様性への理解の遅れがあらわになったと言えよう。
 今回の調査において、日本の多様性への理解の遅れが確認できた。しかし、海外には様々な事例があり、研究も行われているため、日本もこれらの事例を参考に、今後理解を進めていくことが必要であると考える。