佐藤円ゼミでは、「人種」や「民族」をめぐる社会問題を中心に、これらの概念がどのように形成され、なぜ現在も根強く存在し続けているのかを学んでいます。ゼミでは、議論と考察を深めることを目的としています。理論的な考察だけでなく、身近な社会問題や個人の経験に結びつけて考える実践的な学びの場でもあります。
テキストとしてスチュアート・ヘンリ著『民族幻想論 あいまいな民族、つくられた人種』を教材に、「人種」や「民族」の概念そのものの曖昧さ、それが生む問題点や矛盾について考えました。ゼミ生が各章を担当し、担当者が事前に章の要約をしたレジュメを作成して授業を進行しました。また、「人種」、「民族」というあまり身近に感じないテーマを、身近に感じられる話題から考察します。例えば、「民族」の問題に関して、中学、高校の教科書の「民族」に関する表記(○○人、○○族、○○民族等)から無意識のうちに抱いている固定観念について考察しました。さらに、「人種」に関して、日本のクレヨンに「はだいろ」という表記がされていた問題点や、海外の化粧品におけるファンデーションの色のバリエーションの違いを取り上げ、無意識に白人に憧れを抱いているのではないか、憧れを抱くのは何故なのかと、意見を交換しました。一方、このゼミでは、女子大学の学生であるという立場から、性別や人種にまつわる「当たり前」と思われがちな日常の中の偏見や固定観念について深く掘り下げ、自分の意見を明確にすることを目指しています。例えば、女性だから、男性だから、人種が違うからといった要因がどのように影響を及ぼしているのか、自身の体験や知識をもとに議論を深め、考えを言語化していきます。その際には、日常生活での矛盾や固定観念を共有し、新たな問題として議論します。特に、日本では人種差別が身近ではないと感じがちですが、歴史を振り返ると、先住民族への政策や対応、在日コリアンの方々の生活や思いなど、見過ごされがちな課題が存在します。このゼミではアイヌ民族や在日コリアンに関する事例を学ぶ際、教科書だけでなく映像資料も活用し、多角的に理解を深めていきます。その結果、これまで海外の問題として捉えていた「人種」や「民族」の問題が、私たちの日常生活や日本社会にも深く根ざしていることに気付かされました。
他方、このゼミ活動では社会問題の理解を深めるだけでなく、客観的な視点を養い、自分の考えを形成し表現する力を身につけていきます。他者との考え方の違いを尊重し、新たな発見を得ることが出来ます。卒業論文ではそれぞれの興味をテーマに選び、個々の学びを深めて発表を行いながら進めていきます。
佐藤先生は歴史研究者であり、豊富な知識と実体験をもとに、様々な事例を紹介してくださいます。ゼミ生が気付いていない問題、受け入れてしまっている問題も多く含まれており、私たちの「当たり前」を問い直すきっかけがあります。こうした多角的な視点を通じ、「当たり前」を疑う力や、問題を深く掘り下げる力を養うことを目指しています。