今回の発表は、①教材作成時に使用した三ラウンド・システム理論の説明、②三ラウンド・システム理論に基づいて自身で作成した教材の紹介、③今後の見通し、という3点に焦点を当てた。
初めに、英語学習教材を作成するにあたって使用した三ラウンド・システム理論を簡単に紹介した。三ラウンド・システム理論とは、千葉大学名誉教授である竹蓋幸生によって開発された日本人英語学習者向けの指導理論である。この理論に基づいた教材は、難易度の高い実用的な素材をその扱い方によって容易なものにし、学習者が楽しく学びを継続できる仕組みになっている。三ラウンド・システムはその名の通り、1つのストーリーが3回に分割されているのだが、ここで重要な点は、その「長さ」ではなく「深さ」で分割されているという点である。具体的には、第1ラウンドで「大まかな理解」、第2ラウンドでは「表面的、正確な理解」、第3ラウンドでは「結論、意図までの理解」が求められる。また、「分散学習」を採用することで、高い効果や定着度が期待される。具体的には、あるストーリーの第1ラウンドが終わると、別のストーリーの第1ラウンドを挟むといった具合に、1つのストーリーを集中的に学ぶのではなく、長期間かけて段階的に学んでいく。そして、5種の情報群(事前情報、ヒント情報、参考情報、補助情報、発展情報)のきめ細かな配置が、学習者の主体的で継続的な学びを援助する。
次に、三ラウンド・システム理論に基づいて自身で作成した教材の一部を紹介した。映画Green Bookは、1960年代のアメリカを背景に、人種問題を題材とした映画である。この映画を素材として選んだ理由は、当時のアメリカの状況や雰囲気を感じ取れるという点で、学習者にとって興味が持てる素材であると判断したからである。また、家族や友人同士の日常的な会話が多いという点や、主人公の崩れた話し方や方言などのいわゆる「ノイズ」が多く含まれている点からも、実用的なリスニング素材であると考えた。
今回の発表では、教材がどのような流れで進んでいくのかを知ってもらう為、「正確な理解」が求められる第2ラウンドのタスクを一部取り上げ、学会参加者に体験していただいた。その後、情報群や問題の作成時に意識したポイントも解説しながら教材を紹介した。
例えば、ヒント情報(タスクひとつにつき3回提示される)を作成する際は、学習者が自分の力で答えを導き出せるように意識している。特に、学習者の主体的で創造的な思考を促すため、3つのヒントはそれぞれ目標が異なっている。具体的には、最初のヒントで、考えの道筋やぼんやりとしたイメージ、言葉の意味を確認するように促す。そして最後は、注意を向けるべき場所を示すといった具合である。
最後に、今後の卒業論文執筆の見通しについて述べた。今後の教材作成において、「学習者のニーズに応え、学習意欲を引き出し続ける教材の作成」という目標を掲げた。常に学習者のニーズや興味を考慮し、彼らを絶望させず、飽きさせないような問題や各種情報を作成していきたいと考える。