近年、多様性尊重やジェンダー平等の推進により、学校制服は大きな転換期を迎えている。その一つにジェンダーレス制服の導入が挙げられる。しかし、学生服を廃止し、服装の完全自由化を実現すれば、ジェンダーレス制服の導入といった制度改革自体が不要となる可能性も指摘できる。
本論文では、伝統と変革の狭間で揺れる学校制服について、その存続の意義を多角的に検討し、現代社会に適応可能な制服のあり方について論じた。
第一章では、日本とイギリスの学生服の歴史的展開を分析し、その起源の違いを明らかにした。イギリスの学生服の起源は、貧しい子供たちのためにうまれた一方、日本の学生服の起源は、上層の子供たちのためのものであったことが明らかとなった。しかし、現代になるにつれ、社会的地位に関係なく、多くの人が着るようになったことから、包摂的に多くの人に教育を行き渡らせる動きが日本でも海外でもおこなわれていることが制服を通して知ることができる。
第二章では、日本とイギリスの制服の着用率の高さと生徒の肯定的認識を確認する一方、価格上昇による経済的負担や多様性への配慮の必要性といった新たな課題を浮き彫りにした。とりわけ、ジェンダーに関する配慮や服装選択の自由を求める声は、従来の画一的な制服制度からの転換を求めていることがいえる。
第三章では、現代における学生服の課題とその対応策について考察した。SNS を利用する上での課題に対しては、早期の情報教育をおこなうことで、社会における自己表現と安全性のバランスを保つことが可能といえる。また、ジェンダーレス制服の導入については、単なる選択肢の拡大ではなく、学生服の概念そのものを進化させる契機となっている。さらに、コロナ禍の経験は、制服がもつ規律の意味を再定義し、個々の状況に応じた柔軟な運用の可能性を示唆した。
現代社会における学生服の存続意義は、「多様性を包摂した新しい統一性の創出」にあると結論付けることができる。すなわち、学生服は単なる伝統の継承や規律の象徴としてではなく、多様性が尊重される現代社会において、個人の多様性を認めながらも、学校という共同体の一体性を育む重要な教育的ツールとして機能している。今後も社会の変化に応じて、学生服のあり方は進化を続けていくことが予想される。重要なのは、これらの変化を単なる課題としてではなく、教育の現場において多様性と統一性を両立させる機会として捉えることである。そのためには、教職員研修の充実、生徒や保護者との対話の促進、相談体制の整備などといった取り組みを着実に実施していくことが求められる。このような取り組みを通じて、学生服は多様性時代における新しい教育の象徴として、その存在意義を一層深めていくことができるであろう。