近年になって「人種主義」「レイシズム」「差別」「偏見」などという用語をタイトルに含めた書籍が多く見られるようになった。そこで本稿では、世界でも注目されつつある「人種主義」が現代社会においてはどのように変容し、日本でどのように定着しているのかについて、最も研究が盛んであるアメリカの事例を参考に検討を行った。さらにこれらを踏まえて、人種主義をなくすための方策について検討し、筆者なりの考えを提示しようと試みた。
まず第1章では、「人種」という概念がどのように成立し、日本に受容されていったのかについて論じた。そして日本の人種主義と密接に結びつく「単一民族観」について、歴史に関する文献や国勢調査票を用いて検討を行った。
次に第2章では、かつてのあからさまな「古典的人種主義」についてアメリカの研究を参考に説明したうえで、現代の人種主義である「現代的人種主義」「回避的人種主義」について論じた。また、現代の人種主義の加害者になり得るアメリカのマジョリティ「白人」に焦点をあて、その特徴や優位性について論じた。
そして第3章では、本稿のタイトルでもある「マイクロアグレッション」に焦点をあて、アメリカの研究や具体例を提示しながら日本におけるマイクロアグレッションについて検討した。また、第2章で論じたアメリカの「白人」に日本のマジョリティ「日本人」を当てはめ、「日本人」の特徴や優位性について論じた。そして最後にはこれらを踏まえ、人種主義をなくすための方策について検討を試みた。
以上の作業を通して、日本において人種主義は依然として残る「単一民族観」の影響により日本や自分の問題として認識されにくいということが明らかになった。また、「善良な人々によって無自覚のうちに行われる」という点で、「日本人」は現代の人種主義の加害者になり得る存在であり、アメリカのマジョリティ「白人」と通ずる点が多くあることが分かった。そして、人種主義をなくすための方策としては、マジョリティである「日本人」が自身のマジョリティ性やマジョリティ特権を認識し、それを認めることが必要であるという結論に至った。そのためには、「日本人」視点で行われている教育現場の改善や自身が「マイノリティ」の立場を経験することが必要であると指摘した。しかし、現代社会において人種主義をなくせるかどうかは「マジョリティ」次第である。そのため、マジョリティ「日本人」である筆者自身もそれを今後とも考え続けていきたい。