江頭ゼミ

男女会話の心理分析

石川愛歩

 1990年後半にアメリカの社会言語学者であるデボラ・タネン(Deborah Tannen)は、会話の分析を通じて性別による会話スタイルの違いを提唱した。その提唱とは男性は「レポートーク(Report Talk)」と呼ばれる競争的な会話スタイルを持ち、女性は「ラポートーク(Rapport Talk)」として共感を重視する会話スタイルを取るというものだった。  本研究では、2001年から2023年に至るまでの社会変化―例えば、めざましい女性の社会進出や男性の「草食男子」という表現が象徴する物腰が柔らかい姿勢など―を考慮し、日本における男女別の会話スタイルを分析し、タネンの理論がどの程度反映されているかを探り、この20年以上の間におけるタネンの会話スタイル理論の意義やその変遷を検証する。  第1章では研究の目的と全体の構成を述べる。第2章では、この論文が大きく依拠するタネンの分析を詳細に検討する。まずタネンが提唱した男女別会話スタイルの理論を紹介し、「レポートーク」と「ラポートーク」について概観する。第3章では、実際に収集した男女の会話データを分析し、タネンの理論が現代の日本においてどの程度見られるか、また異なる特徴が存在するかを検討する。このデータでは男性が男性の会話スタイルを示したり、女性が女性の会話スタイルを示す現象に加えて、女性が男性の会話スタイルを、男性が女性の会話スタイルを示す現象がみられた。第4章では、第3章での観察を、心理学に基づいて考察する。その心理学の考察とは山名裕子(2017)や樺沢 紫苑(2020)による「返報性の原理」と「感情感染効果」と「パーソナルスペース」と「カタルシス効果」である。これらによって、男女の会話スタイルは説明可能であることが示される。