筆者は、大学一年次より勤務している放課後デイサービスで、数多くの子どもが複雑な生活様式・世帯構成のなかで様々な貧困状態に直面する状況を目の当たりにしてきた。例えば、ひとり親世帯の児童が「親とゆっくり過ごす時間がほとんどないこと」、共働き世帯の児童が「毎日の食事がカップラーメン・ファストフード・お菓子のみであったり、朝食は食べないことがほとんどだったりと、不健康な食生活を送っていること」、世帯所得が低い家庭の児童が「学校の友だちがする旅行・もっているゲーム等の娯楽を同じようにすることができないこと」などだ。このように「ある地域、社会の生活水準のなかで比較した際、資源・物資・機会などが逸脱・欠落状態にある、つまり大多数より貧しい状況のこと」は「相対的貧困」という。近年の日本では9人に1人の子どもが貧困状態に直面していると言われているが、その実態を理解している人は少ないとも言われている。貧困問題について理解されることが少ないのは、貧困問題を貧困層の自己責任とすることで、既存の階層の固定化が進む社会を肯定しているからである。階層の固定化が進む現代社会において、その傾向が強いのは都市部である。そこで、本報告では都市部に暮らしている相対的貧困世帯の子どもが置かれている状況、それを放置することによる弊害、現状の行政等による取り組みの課題を議論し、今後の取り組みの方向性を検討した。
まず、都市部に暮らす貧困世帯とその子どもの現状だが、彼らは文化資本の貧困、居住貧困、時間貧困、食貧困といった多面的な貧困に陥りやすい。文化資本の貧困は、貧困世帯の子どもが親の教育アスピレーションに恵まれないこと、学校外教育機会が欠如・悪化しやすいこと、学校の教育の質が低下していることから引き起こされる。居住貧困は、貧困世帯が低質住宅へ依存しやすいことや、社会的疎外化に陥りやすいこと、また外部養育環境が特に都市部において逼迫していることが挙げられる。時間貧困は、労働時間と子育てを含む家事時間に逼迫されることから生じるため、長時間労働・通勤をする世帯や子育てを一手に担う世帯が陥りやすく、親子時間の欠如と生活リズムの悪化をもたらし、子どもの心身の成長に悪影響を与える。食貧困は、学校給食実施に未だ課題があること、家庭での食事機会において十分な栄養素を含む食事をとることができていないことが挙げられ、不健康な心身状態や、食に対するリテラシー習得機会の剥奪をもたらす。
また、格差社会は貧困層が貧困層内で連鎖的に暴力を引き起こす要因にもなっている。事実、貧困世帯の子どもは家庭内で虐待されやすいだけでなく、自身の子どもにも虐待をする可能性が高いことが指摘されている。また、家庭外でのインフォーマル・ネットワークにおいても暴力を被る可能性があり、長期的に家庭内外で暴力をうける可能性が高い。
このような現代の複雑な就労体系や家庭環境から発生する多面的な貧困に対して、既存の貧困支援は柔軟な対応を行うことができていない。子どもの貧困支援に関する指針には偏りがみられるほか、地方自治体レベルでの貧困支援活動が活発に行われていない現状がある。
また、公共・民間どちらの貧困支援施策においても、財源や人材の限界があり持続性に課題を抱えている。さらに、地域資源を活用しながら、社会的孤立状態に陥りやすい人々に地域とのつながりを与える活動が、貧困世帯の課題解決につながるケースが確認できるが、利用できる地域資源の状態管理や、不十分な一般認識など、活動拡大には課題がある。
以上のような貧困問題や貧困支援が抱える課題に対して、今後新たな貧困支援の在り方を考察して報告の締めくくりとした。