本稿は、フランス王が宮廷建築を通してどのように王権を表象していたのかを論じるものである。宮廷建築とは、国王など支配者の住居を指す。住居としての機能のほかに、外敵を防衛する機能や、権力を誇示する機能を備えることが多かった。本稿は、フランスの宮廷建築の中でも代表例として、パリのサント=シャペル、ルーヴル宮殿、ヴェルサイユ宮殿を取り上げ、各建築それぞれの王権表象の方法を明らかにした。
第一章では、サント=シャペルの建築構造、聖遺物、ステンドグラスの3つの要素に注目した。建築構造においては、二重礼拝堂という構造によって王の身分の高さを感じさせる効果があった。さらに、王の居室と同じ高さに置かれた聖遺物が王の神聖さをより際立たせる役割を担うとともに、その中でも茨冠が、聖王ルイの権威を高め、パリを特別な都市にすることに貢献したことが分かった。あわせてステンドグラスの図像とその配置によって、歴代の王たちを継承する聖王ルイの正当性が主張されていると指摘した。このように聖王ルイは、本礼拝堂の様々な要素を活用していたのである。
第二章ではルーヴル宮殿について、時代と共に要塞から城、王宮、そして美術館へと機能を変化させる様相を考察した。当初は軍事的機能が目立ったルーヴル宮殿ではあるが、フランソワ1世の改築によって、王権表象機能を備えた王宮へ生まれ変わった。さらにアンリ4世はここに神聖な儀式の場という機能を追加した。フランス革命後は美術館となって国民の文化的権利の象徴となったが、すぐに、ナポレオンによって彼の栄光を示す舞台として利用された。そして20世紀、グラン・ルーヴル計画によって誕生したガラスのピラミッドには、ルーヴル美術館の世界的権威を願う意図が込められていた。
第三章では、ヴェルサイユ宮殿を3つの観点から考察した。第一に鏡の間については、その天井において、王が神々と同等の影響力を持つ存在として描写されたと解釈した。第二に庭園の噴水については、王と太陽神アポロンを重ね合わせることで、ルイ14世が最高位の神に匹敵する存在として表されていると指摘した。あわせて、宮殿の充実した水利設備によって王の権力と財力を示す効果があったことが判明した。第三に宮殿で行われた祝祭については、演目、食事、会場などの豪華な内容が貴族を圧倒する効果があったことを確認した。とりわけ、第三回目の祝祭からは王が踊らなくなったことを重視するならば、この頃から王がアイコンとしての地位を確立し始めたと解釈できるだろう。
以上の考察に基づき、フランス国王は、宮廷建築を通じて、多角的かつ柔軟に王権を表象していたと結論付けられる。サント=シャペルでは宗教を利用し、ルーヴル宮殿では時代ごとの役割変化を通じて継続性と適応力を示し、ヴェルサイユ宮殿では神話的象徴と圧倒的な視覚効果を重要視した。このように王は宮廷建築を、単なる住居や防衛設備としてだけではなく、王権を表象するため戦略的としても利用したと言える。