教員近況

台湾ゼミ研修旅行記

赤松美和子

 今年度は初の試みとして、台湾ゼミ研修旅行を企画し、3、4年ゼミの希望者と8月28-31日の日程で台北に行きましたので、記録しておきます。
 7月に3、4年合同ゼミでの事前学習を行いました。台湾の歴史、政治、教育、文化については、3年ゼミ前期に、若林正丈・家永真幸編『台湾研究入門』(東京大学出版会)などで学んでいますので、事前学習は、訪問スポットに特化して行いました。参加希望者がゼミのちょうど半数だったことから、不参加者に、訪問スポットの①基本情報(アクセス方法など)、②スポット概要(歴史など)、③学びのポイント三点、④参考文献について、A4用紙2枚にまとめ発表していただきました。
 四日間の行程は以下の通りです。
 1日目(羽田空港→台北松山空港→国立台湾大学人類学博物館→誠品書店→唐山書店→台湾同志ホットライン協会):羽田空港第3ターミナルに集合して、BR(エバー航空)189便で台北松山空港に向かいました。台湾大学人類学博物館前で留学中の大北さんと待ち合せ感激の再会を果たしました。人類学博物館は、先住民に関する標本や美術品など約5,000点を収蔵しており、現在展示されているものの多くは、日本統治期の台北帝国大学時代に採集されたものです。貴重な収蔵物を拝見するとともに、保管なのか略奪なのか、文化財返還問題についても考えました。台湾大学前のポピュラー書店である誠品書店とマニアック書店の唐山書店を見学した後、タピオカミルクティを飲み、2003年に始まったアジア一のプライドパレードを牽引し、同性婚法制化のために尽力してきた台湾同志ホットライン協会に向かいました。協会では、事務局長の杜思誠さんからお話をうかがいました。夜はホテルのレストランで火鍋を食べました。
 2日目(龍山寺→剝皮寮→華山1914文創園区→自由行動):MRTの一日乗車券を利用して、MRTに乗って清朝に建立された艋舺龍山寺に行き、仏教と道教の神様に旅の無事などをお祈りした後、清朝統治期・日本統治期・中華民国期の3つの時代の建築様式や文化が入り混じっている剝皮寮を散策しました。MRTで日本統治期に酒造工場をリノベーションした文化空間である華山1914文創園区に向かい、11時に解散し、その後は、自由行動の時間でした。淡水や迪化街、夜市に行った人が多かったようです。
 3日目(小籠包作り→林安泰古民家園→国家人権博物館→国立台湾師範大学台湾史研究所→九份):人気の上海料理レストラン金品茶楼の営業前時間に、シェフに小籠包の作り方を教えていただきました。粉から皮を作り、皮に餡を包む過程を体験し、自作の小籠包を自分の番号の蒸籠に入れ、蒸していただいた自分の作品を自分で食べました。小籠包以外にも餃子やスープ、デザートなどシェフのお料理も一緒に堪能しました。食事後は、今夏に日本でも公開された台湾映画『僕と幽霊が家族になった件』のロケ地であり清朝に建てられた四合院建築の林安泰古民家園を散策しました。その後、白色テロ期に政治犯の拘置や秘密裁判が行われていた建物を利用して2018年に開館したアジア唯一の「国家」を冠した人権博物館である国家人権博物館を見学しました。ガイドさんからも、当時、この場所は口に出すことすら憚られた禁忌だったといった、台湾人目線からの貴重な話もうかがいました。国立台湾師範大学は、大妻女子大学比較文化学部の海外研修プログラム(CCIP)の中国語研修先でもありますが、今回は師大の台湾史研究所に行ってきました。院生の王さんによる台湾教育史キャンパスツアーに続いて、OGの力瑜さんより愛玉作りのレクチャーを受け、愛玉を冷蔵庫で冷やし固める間、許珮賢教授による愛玉&牧野富太郎の歴史についての講義を受けました。大変充実した内容で、温かく迎えていただき大感激でした。ちょうど、台湾研修の週の朝ドラ「らんまん」のテーマは「オーギョーチ」、万太郎(牧野富太郎)が台湾に行き愛玉(オーギョーチ)を見つける場面が放送された偶然にも恵まれました。師大台湾史研究所のみなさま、ありがとうございました。夜は、九份で晩ご飯を食べました。
 4日目(総統府→中正紀念堂→永康街→台北松山空港→羽田空港):朝は有志で台湾の朝ごはんを近所のお店に食べに行きましたがなかなか好評でした。荷造り後は、総統府を見学しました。続いて向かった中正紀念堂では、「蔣介石総統と中華民国」と「自由の魂vs独裁者:台湾の言論の自由の道」という対称的な二つの常設展で台湾の現代史を学びました。近くの永康街でお買い物をした後、モンゴリアンバーベキューを食べて、空港に向かい、BR(エバー航空)190便で帰国しました。
 研修の写真は、大妻女子大学比較文化学部公式Instagramに投稿していますので、ご覧ください。
 心配した台風の影響もなく、お天気にも恵まれ、充実した研修になりました。ご尽力くださった杜さん、王さん、力瑜さん、許先生、大北さん、ガイドの陳さん、JTB大阪教育事業部のみなさまに心より感謝いたします。

ストップすること、動き出すこと

安藤恭子

 2023年度前期、サバティカルを取得しました。研究面・授業面での収穫については、「サバティカル報告」に書かせていただきました。ここでは、創作の面での収穫について、書かせていただきます。
 私が初めて俳句を作るようになった1990年から、すでに30年以上経ってしまいました。その頃は、研究的にも仕事の面でも安定していなかったこともあり、作句に誘ってくれた友人とのつながりを楽しめればいいという程度の作句姿勢だったことは否めません。
 とはいえ、不安定で苦しかった当時、私の心の動きは活発で、下手でありながら切実さというものが句の中に見られるように感じます。一番不幸であったと思える時期が、実は一番楽しく、充実していたのではないかと感じる「今」とは何なのか。「自分を見つめなおす」ということが、かならずしも前向きになることではないというジレンマに、大げさに言うと悩んでいるこの頃です。
 そこで、サバティカルの話になります。海外の体験から作られる「海外詠」の句はこれまでも作っており、今回のウィーンとパリの体験からも作句しました。仕事のために盛んに動いていたエネルギーがストップし、思いがけずたどり着いた誰もいない公園の木々の揺らぎと自分の心がシンクロしたり、拙い英語を話しながら日本語が心の中で渦巻いたりと、つらく、痛く、それでいて新鮮で心地よい時間が動き出したのです。今回の海外体験から詠んだ句にこれまでの「海外詠」との違いがあるかと言えば、一見無いように見えて、確かにあることに自分ながら驚きました。同じようでいて違う感覚がある、これはたぶん過去のエネルギーがストップするまでの何かが私を変えていたからだと思います。
 過去とは違っている自分を受け止めていくためには何か必要なのか、それを知るためのヒントは自分の句のなかにこそある。サバティカルが、それを教えてくれたのでした。

教員近況

石川照子

 今年度から、学生委員長を務めていますが、同時に障害学生修学支援委員会委員も担当しています。授業の受講がいろいろな原因でスムーズに行かない学生に対して、授業担当教員に修学のサポートを御願いをしています。コロナ禍以降、年々対象学生は増えています。何か不安を抱えている学生の方は、一度学生相談センターを訪れて、話をしてみて下さい。
 研究に関連しては、今年8月に4年ぶりの海外として、台湾を訪問しました。台北の中央研究院近代史研究所での資料調査が主な目的でしたが、台湾人研究者たちとも久しぶりに交流することができました。その他、南部の高雄にも足を運びました。そして、現地を実際に訪れて、肌で空気を感じることの大切さを、改めて痛感しました。まだ私のメインフィールドである上海には再訪が叶わないでいますが、機会をみつけて是非訪れて見たいと思っています。

近況(最後の2段落はアニメの次週予告風、ラジオ風にどうぞ)

井上淳

 今年は教務の役職で相当時間をとられると覚悟はしていたのですが、春先には改革というトッピングまでつきました。職場は他の業務負担が減るように配慮してくれたものの特定の業務だけで忙しくすることは性に合わず、気分転換になるしごとやものごとをどのようにつくるか?が、今年の課題でした。そんななか、新型コロナウイルスが5類に移行したことは、とても助けになりました。
 たとえば、他学部の先生やキャリア教育センターの先生方とすすめてきた地方創生とキャリア教育プログラムに関する研究では、ようやく今年、学生有志とともに現地視察(北海道美瑛町)をすることができました。視察に際しては町関係者そして現地の方々にとてもよくしていただき、沢山の場所を訪問して多くを学ぶことができました。視察に参加した学生は後期の課題解決型授業で美瑛町から出された課題に取り組んでいますが、その様子を見守ることは刺激になりました。
 仕事以外にも新しいことをしてみようと考えました。千代田キャンパスまで遠征(通勤)するモチベーションも必要でしたが、ここでも新型コロナウイルスが5類に移行したことが助けになりました。都心で開催されるライブに参加することができたからです。キャンパスからは徒歩で武道館にアクセスできますし、東京ドームも近い、六本木やお台場へも短時間で移動することができます。今年は洋楽アーティストの来日公演がたくさんありました。物販の列にならび、会場によっては公演前のワンドリンクを楽しみ、身体を揺らして声を出して…とおおいに楽しみました。
 「研究に教育に専念しています!」「◯◯を出版しました!」「××に出演しました(とりあげられました)!」などと書けたら、研究者・専門家らしくてよかったのですが…私の2023年は気をそらしながら役職をやり過ごす年でした。OGのみなさん、在学生のみなさん、読者のみなさんはどんな1年だったでしょうか?来年もし交流や接点があれば、ぜひ楽しんで取り組みましょうね!
 そして、在学生でこれから私のゼミに入るみなさん、ゼミふりわけ決定後に連絡した通り、水曜日夕方は空けておくようにっっ!

ウィーンのカフェ文化

岩谷秋美

 昨年度に引き続き、この夏もヨーロッパで中世建築の調査をする機会に恵まれました。今年度の目的地は、オーストリアのウィーンです。出発前後の日本もそうでしたが、ウィーンも猛暑日が続きました。対象はゴシック大聖堂の門だったので、調査は屋外での作業になります。それは暑さとの戦いで、なかなかはかどりませんでした。休憩が必須です。そういう事情もあり、結果として毎日のようにカフェを訪れることになりました。
 ウィーンのカフェ文化は、日本でも広く知られているのではないでしょうか。その始まりは17世紀後半にさかのぼるとも言われます。カフェは文化や知識の中心地として発展し、19世紀末には作家や芸術家、学者たちが集まるサロンとしての地位を確立しました。つまりウィーンのカフェは、単なる飲食店ではなく、それ以上の文化的な意義をもっていたのです。
 今回のウィーン滞在では、朝から晩までカフェを堪能しました。朝はゼンメル(オーストリアのパン)とメランジェ(スチームミルクをのせたコーヒー)、それにゆで卵をひとつ添えた朝食。昼はシュニッツェル(カツレツ)やアイアーノッケル(卵料理)。おやつはアップルシュトゥルーデル(極薄生地のアップルパイ)にブラウナー(エスプレッソに少量のミルク)を添えて。もしコーヒーを単品にするなら、アインシュペナーやマリア・テレジアもお勧めです。アインシュペナーは生クリームをのせたエスプレッソで、小さなグラスで提供されるかわいらしい飲み物です。マリア・テレジアはエスプレッソにオレンジリキュールを混ぜ、生クリームをたっぷりのせた、パフェのような見た目のコーヒーです。ほかにも様々な種類のコーヒーがあるので、注文の際はいつも迷います。
 カフェでは各紙揃えられた新聞を自由に読むことができますし、時にピアノの生演奏に耳を傾けることもありました。観光客や課題に取り組む学生、ビジネス・ランチ中のひとびとを観察するのも楽しみのひとつです。調査の合間ではありましたが、この夏はカフェ文化を久しぶりに満喫することができました。

近況

上野未央

 最近研究しているのは、「ロンドン年代記」と呼ばれる史料群です。15世紀から16世紀に英語で記述された年代記で、いくつもの写本や印刷本に残っています。何年に何があったのかを年表のように記したものなのですが、それぞれの写本・印刷本ごとに内容が異なり、書いた(あるいは出版した)人が、何を参考にして書いたのか、あるいは何を大切に思ったかによって、違いが生まれたと思われます。印刷本の内容に、手書きで「修正」が加えられた例もあり、当時の市民たちが「印刷された言葉」をそのまま信じたわけではないところも、興味深いところです。

近況

江頭浩樹

 言語の派生と構造を併合(MERGE)のみで説明する中で、付加部(adjunct)をどう扱うかに、最近は考えを巡らせています。私の大学院時代の機能文法の立場に立つ恩師の約30年前の論文を読んだのがきっかけでした。そこには生成文法理論への痛切な批判がありました。確かに指摘は正しい、しかし機能文法での代案には納得がいかない。その日から、様々な考えを巡らせています。目標としては、対併合(pair-merge)を使わずに、項を導入するMERGEとたがわない方法で付加部を派生に導入し、自然な方法で付加部の不透明さ導き出す。必ずbreakthroughがあるはずだと信じつつ…

喜び多い2023年!

加藤彩雪

 今年度は、4年ぶりにイギリスのロンドンにて、研究論文執筆のための資料収集を行いました。久しぶりの海外滞在は、予想以上に緊張感がありましたが、大英図書館をはじめとした様々な図書館での資料収集は、実りのあるものになりました。近年は、南半球の文学テクストのイギリスやアメリカでの受容について研究を行なっていますが、南半球の文学がもっと日本で注目されることを願うばかりです。今年は、Beatrice Hastingsという南アフリカ出身でロンドンで活躍した作家/ ジャーナリストについて研究発表を行いました。授業でも紹介していきたいと思っています。
 また、今年度はゼミの皆で国会図書館や美術館に行きました。主体的に学びを行うゼミ生の顔はとても生き生きとしており、私の方がいつもパワーをもらっています。12月には、3・4年の合同ゼミを行いましたが、横のつながりだけではなく、縦のつながりを大学生活を通して育んでいってもらいたいと思っています!
 日常が戻りつつあることに喜びを感じた2023年でした。

近況

城殿智行

 2020年から4年間、世界を閉ざしたコロナ禍を抜けて、2024年度からようやくすべての授業が通常の形態で行われるようになるのではないかと思います。しかし、その期間内でロシアによるウクライナ侵攻が起き、またパレスチナによるイスラエル奇襲と、イスラエルによる報復攻撃が生じました。人種や民族と国境の障壁を超えて、自由な連携を模索すべきはずの世界を、今度は愚劣な暴力がふたたび閉ざそうとしています。こうした愚かさの連鎖を抜ける道がどこかにあるでしょうか。比較文化学はそれを模索するための知的な実践だと考えています。

近況

行田勇

 2023年度は大妻に勤めて18年目でした。野球の背番号ではエースナンバーになるのですが、大谷翔平選手の影響で将来的には17がエースナンバーになるのでしょうか。(大谷選手のLA Dodgers入団会見を見ながらこの原稿を書いています。)
さて、4年前(コロナ禍の直前)、この近況報告で、私は最後に次のように書きました。
 「15というのはなんか区切りの数です。まあでも、だから特にどうってことはありませんが。ともかく平穏無事な1年でありますように。」
 相変わらず、こんな私の願いがかなわない日々が続いています。残念ながら、「ともかく平穏無事な1年」とはいきませんでした。やれやれです。
 しかし、悲観的なことばかりではなかったような気もします。今年も災い転じて福となすことがたくさんありました。そういうわけで、昨年に引き続き「良いことも悪いこともいろいろあった1年でした」という近況報告にしておきましょう。
 さて、2024年度は大妻に勤めて19年目となります。今度こそ平穏無事な1年を過ごしたいものです。
 毎年恒例の自転車日記ですが、今年は自転車よりも登山の機会が多かったので、今回は1回お休み。その代わりに登山日記を。新規で購入した登山用の靴がシンデレラフィットで、大当たり。下山しても全く足が痛くならないというのは素晴らしいことです。ザックもいつもと違うものに変更したのですが、こちらもなかなか使い勝手がよろしい。山中でのテント泊では、新しい寝袋を試してみました。微妙な温度調整が可能で、すこぶる快適。夜中に獣の遠吠え(熊ではなくおそらく鹿だと思います)を聞きながら寝るというのはワクワクします。

近況

久保忠行

 コロナ禍の行動制限も解除されたこともあり、今年度は法政大学国際文化学部の石森ゼミと合同ゼミを実施しました。
 フォト・エスノグラフィーという文化人類学的な手法にもとづく成果物の制作に向けた合同ゼミを10週(10回)にわたって実施しました。混合チームのグループをつくり、双方のキャンパスを行き来しながらというのは、初めての試みでした。靖国神社の横を通り抜ければ、意外と法政大学は近く、普段は足を運ぶことのないキャンパス、教室、学生と学ぶのは新鮮でした。
 異なるキャンパスに足を運ぶことで、学生たちは自身が学ぶ環境を相対化し、同時に異なる二者の共通点も発見する点も、合同ゼミを実施した意義だったと思っています。

近況

酒井雅代

 昨年の近況欄で、「個人的には、2年ぶりに渡韓できたのも良い思い出です。コロナ禍がもう少し落ち着いたら、学生のみなさんとも一緒に行けたらいいなと思っています。連れていきたいところがあちこちありますし、逆にみなさんから教えてもらって知ることもあるだろうと、今から楽しみです」と書きました。念願かなって、今度の2月にゼミ生有志で韓国文化研修に出かけます。今回はソウル市内の史跡・近代遺産をめぐります。もちろん、いま流行りのスポットも。
 オンラインやオンデマンドにも良さはあります。私の場合は、遠方の人や、仕事や家庭の都合でなかなか会えなかった人とも会うことができましたし、海外の研究者と交流する機会もかえって多くありました。学生のみなさんにとっては、自分の都合に合わせて授業を受けることもできたでしょう。ただやはり、オンラインである程度できてしまう分、自分の手の届く範囲で世界が完結してしまうような気もします。
 世の中には予想もつかないことがたくさんあります。実際に歩いて、目で見て、感じて、考える、そういう機会になればいいなと思っています。

「勞而無功」?「人事天命」?それでも時には「祝祭」は必要

佐藤円

 3月末をもって学部長を卒業し、これからは余生を静かに生きようと思っていたのですが、予想通りにはいかないのが人生。日々学部運営で苦労している新学部長や新学科長の姿を見ていると、ついおせっかいをやいてしまう日々が続いています。学生さんとの関わりではあまり感じたことがなかった「勞而無功(労多くして、功少なし)」という感覚、管理職になると強烈に味わいます。現学部執行部の疲れた様子からはそれが察せられます。
 ところで、この「勞而無功」って言葉、荘子が出典だったのですね。だとすると万事「無為自然」が正解ということでしょうか。確かに学部長在任中は、最後には開き直って、「なるようにしかならない」と結果を受け入れてはいましたけれど、そこにたどり着くまではやはりあがかざるを得ませんでした。結局のところ、いきなり「無為自然」とはならず、「人事天命」となるものではないでしょうか。何もしないでいるくせに、「そんなことはやっても無駄」とうそぶく評論家ではいられないし、そういう態度の人って、ちょっとダサくて苦手です。あらら、余計なことを書き始めたので、まじめな近況報告に戻ります。
 去年この欄に、学部長を辞めたら研究の世界に戻らなくてはいけないなどと書きましたが、それはまだ道半ばです。それでも多少はやれたことがありました。5月に名古屋大学で開催された西洋史学会で、2020年に書いたアメリカにおけるアフリカ系アメリカ人の歴史的起源についての論文の内容を整理し直して報告しましたし、10月には昨年報告者として参加した網走の北海道立北方民族博物館での国際シンポジウムに、今度は座長の一人に招かれ、先住民のジェンダーに関するシンポジウムのコーディネートと司会をしました。網走のシンポジウムには、まさか2年連続で呼んでいただけるとは思っていなかったので、大変感謝しています。ジェンダーという昨年のテーマが好評で、もう一度続編をやりたいとのお申し出でした。人類学者が多く集まる機会なのですが、歴史学からの視座を少しは提供できたかなと思っています。そして夜の網走、そこだけぼんやり明かりがともっていた昭和の雰囲気が漂うスナック「深海魚」で、海外の研究者を交えて歌あり踊りありの文化交流を行い、僕を含め全員メーターが振り切れました。楽しかったです。やはり時には「祝祭」が必要です。比較文化学部の日常にも、そういうことがたまにはあったほうがいいなと思う今日この頃です。

近況

佐藤実

 先日、大学の友人がやってるアマチュアバンドのライブを観に行ってきました。3つのバンドが出演する形式で、コロナが猛威をふるっていたころにはできなかった開放感のあるライブでした。音楽が「不要不急」ではないことをあらためて実感しました。
 楽しかったのですが、このイベント、演奏側も観客側もともに年齢層が高いんですよね。そして確かに演奏されている楽曲もそういった年齢層にフィットしたものが多い。音楽なので色んな年齢層の人が集まってもよさそうなんですが、そうはならないんだなあとこれもあらためて感じました。

近況

Johnson, G.S.

 数年ぶりに国際学会に発表する論文ことを申請しました。初めてオンラインで発表できるようになりました。オンラインは学問にともとても役に立って、授業、会議、学会などは時間と費用も節約できます。学生たちにも人気で、私は今年続けて2科目はオンデマンドで行って、履修生は意外と多いです。
 私の学会論文のテーマは日本における身体障害者の教育史です。1923年の関東大震災の影響による怪我や病気により、障害児がより目立つようになりました。 特に子どもたちへの救援活動の推進が強まりました。障害のある子供たちの教育の機会が増えました。 イノベーションは、子供たちの教育とヘルスケアで確認できます。それにもかかわらず、軍国主義の増大は、障害児に対する偏見と差別を最終的に激化させた。 非常に複雑で興味深い時代です。

近況

銭国紅

 9月中旬より在外研究で中国にやってきました。4年ぶりの訪問ですが、中国の変貌ぶりにびっくりする毎日です。かつて記憶の中の中国はもう殆ど見出さず、生まれ変わった新しい中国像の方が多く目の前に見えています。
 もちろん変わらなかったところもあります。それは政府系テレビ局の番組の優先順位がトップ政治家の近況報告を最初に見せることである。この部分はわりと長時間の報道になっていますので、政治に興味のない大衆にはよく敬遠されがちで、知り合いもそれを視聴しない人が多いし、私も昔あまり見なかったと覚えています。このあたりは今も昔も変わらないままです。
 変化が大きいのは、庶民生活の中身です。私の宿泊先は河北省と北京市との堺目にあるところで、毎日北京から移り住む通勤者が北京市内と住宅地の両方を、自家用車、バス、地下鉄の組み合わせで往復している光景を目の当たりにしています。自家用車が普及し、北京市内の不動産価格の急騰によって、昔都市部から離れた荒野地域の多くは、いまはどんどん都市化され、ものあふれる環境にかわり、便利で生活しやすい住宅街に変りました。ここで感じたのは各地方から集まってきた住民の人々における新しい市民社会の意識形成も途中ながら、確実に向上されているということである。例えば、つい最近まで住宅地の構内に毎日大勢の人がペットをリードせずに散歩に出てくるのが普通でした。
 1ヶ月前から南方中国のどこかにリードしない大型犬が児童に嚙みつく事件がネットで伝えられ、これを受けて私の泊まっている住宅地の風景も一変しました。いま大型犬はリードして出てき、小型犬も深夜や人の少ない時間帯にでてくるようになったりすることに変っています。愛犬家たちの意識が急に変わりました。ただしこの犬関連の児童負傷事件については、公式のテレビや新聞はまったく触れられていなく、政府側もなにかこれについて特別に指示していないにもかかわらず、ネットの情報伝達が、大きく市民の意識に影響を及ぼすことができる一例になります。
 テレビだけを見て、中国はむかしも今も変わらないという結論を簡単に出すことができるが、しかしそれは政治のスタイルにばかり目を奪われ、庶民の世界の激変に目を背けてしまう可能性があると痛感する事例です。まだ短い間ですが私にとっても、未知のものが多いこの「中国」という存在をどう捉え、どう理解するかは、ますます重要な課題になっていると再確認した次第である。
 このような発見や感想を来年どう授業で学生に伝え、共有されるかを思考するのが毎日の楽しみです。

一緒に学ぶ日々です

高田馨里

教育と研究と

 12月第1週目の月曜日は、卒業論文の提出締切日でした。私のゼミの学生のみんなはちゃんと提出しただろうか、と心配しつつ、きちんと出ていることを確認し、ほっとしています。今年の4年生ゼミは完全対面になって2年目のゼミですが、学生たちは、1、2年生のころをオンライン授業で過ごしてきた世代です。それゆえ、毎週のゼミで行うピアリーディング(お互いの原稿を読みあう)を行い、意見を言い合い、さらに、卒論提出後も毎週お互いの卒論を読みあい、感想を言い合い、修正点がないかどうかを確認するゼミを続けています。ゼミ生たちが完璧を目指して見直している卒業論文は、学部の書庫と担当教員の研究室に並ぶことになります。そして3年生も、新たな卒業論文に向けて第一歩を進もうとしているところです。卒論の研究テーマは様々なので、私も一緒に学んできました。3年生が、またどんな興味深いテーマを選んで発展させていくのか楽しみです。
 学生たちの学びと成長を間近に見つつ、私自身も研究を進めることができました。今年度は、科学研究費助成事業(科研費)に採択されたので、6月にはワシントンDCと1月にはサンフランシスコで学会発表を行いました。コロナの時期にzoomで共同研究してきた世界中の仲間たちと、今度は一緒にパネルを組んで対面で発表しました。対面での学会はとても刺激的であるし学ぶことも多いので参加が決まってとても嬉しかったです。準備は大変ですが、充実した毎日を送っています。日々、学生とともに学び、自分の研究も進め、少しでも学生の皆さんに知識を還元出来たらいいなと考えています。

近況

武田千夏

 スポーツと勉強は同じようなもので、両方ともマメにコンスタントに続けることによって、力がつくものだと思っていた。しかしそうでもないらしい。筋トレについて最近次のようなことを聞いた。「10回やるとしたら、8回か9回で体が動かなくなるぐらい重い負荷をかけないと、やる意味がない。」つまり筋トレは強い負荷をかけなければ前進しない。本来自分は苦しいこと、大変なことを避けたがり、何かを学ぶにあたっても、簡単なことから始めよう、簡単なことのみで理解しよう、としてきたが、それは筋トレにはあてはまらないのである。そうすると両者は本当に似て非なるものなのか、との疑問が頭をもたげた。もしかしたら勉強ももう少し負荷をかけるべきなのか、現在悩み中である。

まだまだ学び

貫井一美

 この4月から何の因果か、「学部長」なるものに翻弄されています。全くもって想像のつかない世界で慣れないことばかり、右往左往しています。それでも周りの方々の協力もあってどうにか前期も終えて今年もマドリードで夏を過ごすことができました。バルで散々文句を吐きだした後、友人に「あなたの年で新しい環境を得るなんてそうは無いことなのだからポジティヴに考えなさい!」と言われました。だからスペイン人はすごい!確かに彼女のいう通り!この年齢になると知らないうちに安定思考になって新しいことに向かう機会は減っていく一方、と彼女の言葉に妙に納得し反省した次第です。とはいえ、この夏集めた資料や写真を整理する間もなく、今までに無い出来事に直面し、今まで出会ったことのないような方々と接して人生勉強だと言い聞かせながらの日々を過ごしています。それでもゼミでは相変わらず学生たちと楽しく学んでいます。「学び」は楽しい。今年はマドリードも異常気象で、なんと9月初旬に土砂降りの雨。初めてマドリードで長靴を買う羽目になり、そこで問題発生!何しろ使った経験が無いので「長靴」という単語が出てこない、マドリードで長靴が必要な場面は今までになかったのでした。英語から直訳して“bota(ブーツ)de lluvia(雨)”と言ったらお店の人に“bota de agua(水)”と直されました。「雨ブーツではなく、水ブーツかあ!」まだまだ学びっていうことです。

中高の見聞

米塚真治

 個人的なことですが、今年は自分の子供が受験する年にあたっていたため、本人の選択の一助になるよう、各学校の情報やデータを取ってきて分析しました。たとえば卒業後の進路については、実進学者のデータ(パンフに出ている合格者数ではなく)をソースから取得する、それを当年度の卒業生の実数で割ってソートする、といった作業をしました。このあたりは皆さんの卒業論文の作成支援でも扱っているようなことなので、私にとっては通常進行でした。
 色んな学校の沿革も調べたのですが、これは趣味の領域に属します。近年トラブル続きの某有名大学と付属中高が、戦後GHQに解体されていたことは、今回初めて知りました。「解体」といえば、2022年に惜しくも解体された名建築、中銀カプセルタワービル(黒川紀章設計、1972年)、その施主だった実業家は、江戸時代創立の某中高を継承して廃校の危機から救った人物でもある。そんな小ネタも仕入れることができました。
 日本の実業家にはアメリカと違って社会事業家が少ないようなイメージを持っていたのですが、決してそんなことはなく、実業家で学校を創立したり継承したりする人は、昔も今もけっこういるのだ、というのが認識を改めたところです。また、宗教のプレゼンスも、教育界ではまだまだ大きいと感じました。
 学校説明会・相談会や校内⾒学にも、何度か⾜を運びました。出張授業でもなければ、中高の校舎に足を踏み入れる機会はなかったので、貴重でした。学生の皆さんが大学入学までに過ごした環境や、受けた教育に思いを馳せることも、今後はより容易になることでしょう。教師生活のこの期に及んで、遅すぎるとは思いますが、それでも知らないよりは知っていた方がいいですよね。

近況

渡邉顕彦

 皆さまお元気でしょうか。2023年も世界でいろいろな動きがありましたね。
 今年は研究でフィリピン(4~5月)、イタリア(9月)、フランス(11月)に行ってきました。また昨年度になりますが、今年3月には20数名の学部生を連れて12日間の日程でギリシャのアテネ周辺とペロポネソス半島、オリンピアなどを見てきました。国内では8月に、文学部の先生や大学院生などと一緒に長崎と平戸で研修を行いました。最近は研究で古代ギリシャ・ローマ文化伝統の延長線上にある近世以降のラテン語文献を調べていますが、あちこちのエキスパートと話すと今まで連綿と続けられてきた調査の重厚さに圧倒されると共に、所々研究の蓄積から漏れているものもあることに気づかされます。
 飛行機であちこち行く際、楽しみにしているのが機内映画です。今年見たものの中で一番印象に残ったのが2021年のフィリピン映画『A Hard Day』です。調べてみると2014年の韓国映画で邦題は『最後まで行く』というもののリメイクであるようです。日本だけでなくヨーロッパや東南アジアでも韓国文化が大人気であることの証ですね。またYoutubeで公開されているフィリピンのテレビドラマで『General’s Daughter』というものもあるのでこれも少しずつ観ていっています。何十時間かあるので、たぶん来年も見続けていると思います。
 寒い日本の冬には子供時代を過ごした熱帯のフィリピンが恋しくなります。子供時代には正直この環境から出たくてたまらず、そのためヨーロッパ関係の研究もするようになったのですが。今年50台に突入したせいか、高校卒業まで住んでいたフィリピンや、日本に来る前に20年ほど過ごしたアメリカのことがよく思い出される毎日です。