特別講義要旨

「イラク・シリアの現状」

認定NPO法人IVYイラク事務所現地事業統括 齊藤喬

 本講義では、イラク・シリアの教育問題について、現在の社会情勢を踏まえながら、現地で支援活動を実施する国際NGOの視点から講義を行った。まず、イラク・クルド自治区の歴史や文化などの社会背景を紹介することから始め、シリア内戦とISISによる内戦の影響、それによって生じた難民と国内避難民の生活状況、それに対して国際NGOがどのようなアプローチで支援を実施しているのかについて教育分野に焦点を当てながら紹介した。また、国際協力を実施するNGOとして、どのように事業を形成し事業運営を行っているのかについても紹介をした。
 イラク国内では、現在においても約120万人以上が難民・国内避難民として、故郷に帰還することができず避難生活を送っているが、国連や国際NGOからの支援が減少しており、教育分野への投資はイラク国内で不十分である。1教室で50人以上の過密状態での学習を強いられている、教室に電気がない、ドア・床・窓が壊れている、トイレが使えないなどの学校施設の課題や、教員の能力強化といった学習の質の向上への支援が必要不可欠な状況である。私が勤務している国際NGOでは、学校建設と教員研修、保護者への啓発活動を行い、政府、教員、保護者、国際NGOが共同して学習環境の向上に取り組むことができる環境を整えるための事業を実施している。このような教育の問題のみなえらず様々な社会課題を抱えているこれらの国では、教育という1つの問題が複雑に他の社会問題とつながっていることが指摘されている。社会全体の教育の重要性の認識の欠如や、社会文化的規範により女子が教育を受け続けることが難しい実態など、様々な要因が混在するため、適切な支援を実施するには、それぞれの問題の本質を明らかにすることが重要であると結論づけた。
 本講義を通して、日本からは、遠く離れた国、過去の忘れさられかけている紛争の影響を受けた地域である、ととらえられがちなイラク・シリアの現状を「教育」、「国際協力」という切り口からを少しでも関心を持ち身近に感じていただけると幸いである。