卒業論文中間発表概要

日本における外国人女性のSRHR-技能実習生の乳児遺棄事件を通して

松濱朱里

 今回の比較文化学会では、「日本における外国人女性のSRHR(性と生殖に関する権利)‐技能実習生の乳児遺棄事件を通して」というテーマの卒業論文の中間報告を行いました。技能実習生による乳児遺棄事件が後を絶えないという事実に衝撃を抱き、技能実習制度自体の問題点、さらに日本において技能実習生のSRHRについて、技能実習生の出身国として最も多いベトナムの事例に焦点を当てて検討を行いました。その結果、技能実習生による乳児遺棄事件の背景には、来日費用として母国で「多額の借金」を背負う問題や、「妊娠すれば帰国させられる」という思い込みがあるという問題があるということが明らかになりました。
 「多額の借金」について、2021年から2022年に行われた調査によると、ベトナム人技能実習生の83.5%が借金を背負っており、その平均額は67万4480円で、そのほとんどが送り出し機関への支払いに充てられている可能性が明らかになりました。ただし、中間報告時点では、送り出し機関への支払い費用が高額である理由については明らかにできておらず、それは今後の課題としました。
 もう1つの問題として「妊娠すれば帰国させられる」と思い込みについて挙げましたが、本来、日本の法律において技能実習生たちは日本人の労働者と同様に妊娠等を理由に解雇など不利益取り扱いを受けることは禁止されており、妊娠を理由に無理やり帰国させられるのは違法となります。しかし、妊娠によって帰国を迫られたという実際の例は数多く存在し、こうした事例を人づてやSNSで見聞きし、妊娠すれば帰国させられるという思い込んでしまうことが考えられます。また、来日前に技能実習生が受ける渡航前研修において、「日本企業が好む」技能実習生を作り出すために厳格な規則や集団生活からなる「軍隊式」の教育が取り入れられる場合があり、その過程で妊娠を規制するような発言が投げかけられることもあります。
 こうした現状を受けて、日本政府は2019年から「妊娠・出産等を理由とした不利益取り扱いの禁止徹底について」という注意喚起を、受け入れ企業、監理団体などに行い、技能実習生に配布される技能実習手帳に「技能実習中に結婚・妊娠・出産した場合」の項目を追加して技能実習生にも支援について呼びかけています。しかし、2019年注意喚起後にも乳児遺棄事件は起き続けており、実習生に対する妊娠・出産に対する支援は行き届いていないのが現状です。さらに、家族帯同の禁止や在留の年数を定め、「移民」として日本に定住してほしくないが日本の人手不足を補う「短期労働者」として都合よく扱うことを「実習」と称するこの制度下では、そもそも女性の妊娠・出産は想定されておらず、支援が充実しているとはいません。
 ここまで紹介したのが第一章から第二章内容になります。第三章で取り扱う予定のSRHRについては、「日本のSRHRの実現状況」の検証や「ベトナムのSRHRと日本のSRHRの比較」を行い、技能実習生のSRHR実現には何が足りないのかについて明らかにしていこうと考えています。