行田ゼミ

3ラウンド・システム理論に基づく英語学習教材-映画Wonderを素材として-

大内涼香

 日本人は英語が苦手だと言われることがある。実際に、多くの人が英語に対する不安や苦手意識を抱いている。日本でTOEIC Programを実施・運営する国際ビジネスコミュニケーション協会(IIBC)が実施した2019年の調査によると、20代から60代のうち約7割(69.0%)が、英語が苦手である、またはどちらかと言えば苦手であると回答した。この結果から、多くの日本人は英語力に自信を持っていないことがわかる。しかし、「英語が話せるようになりたい」、「英語が話せたらかっこいい」という憧れは誰もが一度は持ったことがあるだろう。特に近年、外国人観光客の増加から英語を必要とされる場面は増えた。英語学習アプリなどの広告を目にする機会は多く、英語学習への意欲はより高まっていると考えられる。さらに、東京都は2022年度の都立高校入試から、英語の試験において新たにスピーキングの問題を導入した。英語力の重要性がより一層高まっていることは明らかである。
 英語力の向上を望む人にとって有効な指導理論を模索した結果、本稿では竹蓋幸生が提唱した3ラウンド・システム理論が効果的であると判断した。この理論は、聞く、話す、読む、書くことの4技能すべてにおいてバランスの取れた英語力を養成することを目的として作られている。4技能どの能力にも偏りのない英語力を習得できるということは、英語学習者にとって非常に魅力的な点である。また、この指導理論は英語力を着実に身に付けることができる構造をしている。この理論に基づいて作成された教材は、3つのラウンドから構成されている。ラウンドが進むにつれて教材の難易度は高くなるが、学習者は様々な角度から作られた問題に挑戦する中で、理解度を上げていく。その結果、学んだ内容を無理なく定着させることができる。加えて、学習者が飽きずに興味を持って学習を続けられるようあらゆる工夫が施されている。そのため、学習の継続も期待できる。
 この3ラウンド・システム理論に基づいて、本稿では映画Wonderを素材に英語学習教材を作成した。映画から2つのシーンを選定し、それぞれChapter1、Chapter2として教材化した。Chapter1では、主人公の姉が友人と会話するシーンを使用した。ここでは、日常会話で使われる表現が多く登場する。Chapter2では、いじめを行った生徒とその両親と校長の4名が話し合うシーンを選んだ。話し合いの中で次々と言葉のやり取りが展開されるシーンである。これら2つのシーンを用いて教材を作成し、学習者が飽きずに楽しく学習に取り組める教材になるよう意識した。
 本稿は次のような構成となっている。第1章では、竹蓋の論文を参考に3ラウンド・システム学習理論を紹介する。第2章では、教材作成の素材として使用した映画Wonderのあらすじと、登場人物及び演じた俳優を紹介する。第3章では実際に作成した教材を提示する。