武田ゼミ

クラシックバレエにはなぜ「女性」が主体というイメージがあるのか

望月香里

 私は幼少期よりバレエに親しんできたこともあり、卒業論文で、「クラシックバレエと聞くとなぜ女性が主体というイメージがあるのか」という問いに取り組んだ。
 第一章ではクラシックバレエの歴史について紹介した。バレエの歴史は時代ごとに特徴があるため、バレエの起源、ルイ14世が在位した17~18世紀、18世紀後半、ロマン主義が台頭した19世紀、20世紀のバレエとした。現代のバレエの特徴に近いのが19世紀で、トゥシューズやチュチュなど、クラシックバレエと聞いて思いつくものが台頭している。
 第二章では19世紀フランスでロマン主義的バレエを広げたマリー・タリオーニについて述べた。マリー・タリオーニとはミラノで生まれ、パリでオペラ座のダンサーとして活躍した。ここでは彼女の生い立ち、この時期の男性ダンサーの立ち位置について彼女の父の視点から考察し、最後にバレエの代名詞でもあるトゥシューズが当時のバレエの女らしさの象徴であると指摘した。ポワント技法がいつ生まれたのか、最近の研究では1810年代だと言われている。ワイヤーの使用やオペラ座のダンサーがポワントで立っているリトグラフがありそこには1821年と記載されていた。女性には男性のような力強さはなく、優しさや美しさ、柔らかさ、弱さといった表現に長けている。マリー・タリオーニは19世紀フランスの大変動の中から生まれたロマン主義が求めた非現実的世界や異国の地への憧れや逃避といった思想を女性らしい「美」として舞台上で体現した。それゆえに彼女こそ、クラシックバレエの創始者であり、その後に世界を揺るがせるクラシックバレエブームの萌芽を作った人物である。
 第三章では19世紀末に活躍した印象派の画家のエドガー・ドガの《エトワール、または舞台の踊り子》を取り上げ、そこから見えてくるバレエの女らしさについて考察した。ドガはオペラ座に足繁く通い、ダンサーの世界を生涯変わらぬテーマとして描き続けた。彼が描く踊り子は身分の高い男たちが娯楽とともに性の対象として彼女たちに興味を抱いており、現代のクラシックバレエの印象と大きく異なるため、なぜそのような差異が生まれたのか、19世紀のバレエの特徴や時代背景を考慮しつつ考察した。彼の時代の踊り子志願の少女たちの大半が労働者階級出身だった。そんな彼女たちにとってバレエ芸術の真髄を極めることよりもまずは良いパトロンを捕まえるのが先だった。ドガによる19世紀末のフランスの貧しい出身の若いダンサーたちの優美な姿はそれでも今日に至るまで、フランス的な「女らしさ」を視覚的に表現し、固定化させる役割を果たしたのである。
 結論として、「クラシックバレエにはなぜ『女性』が主体というイメージが生まれるのか」に対する解答として、それは19世紀フランスのバレエの特徴や歴史に影響を受けたものであり、同時に現代の日本におけるバレエの位置付けによるものであるとした。