井上ゼミ

国際報道の発信方法における課題 ―地域格差と視聴者意識に着目して―

河野あさひ

 2022年2月から始まった、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は連日メディア各局に取り上げられ、日本国民に広く知れ渡った。一方で1994年にルワンダで起こった内戦はウクライナへの軍事侵攻以上の約80万人の犠牲者を生み出したにもかかわらず、報道量は非常に少なく日本国民の関心は向けられなかった。日本の国際報道は偏っているのではないだろうか。
 本論文では、日本の国際報道の問題点として、メディアの発信の仕方や量に地域格差があることと情報を受け取る側の国際問題への意識が低いことを指摘し、その改善方法を考察した。
 第1章では、過去の戦争報道を例に日本の報道があくまで日本中心であり日本に関係することか、断片的に日本人が興味を持ちそうな内容を優先して選択し、報道してきたことに言及した。筆者の考える国際報道に対するメディアの使命に照らすと、使命が果たされていないと考察した。また、使命が果たせない理由の1つとして日本独自のシステムである記者クラブによる情報の制限を挙げた。日本のメディアは記者クラブから同じ情報を同時に入手するが、提供される情報量が膨大で情報源の事実確認などの調査が不足している。記者クラブにより独自ニュースの発掘が妨げられているのである。
 第2章では、視聴者である国民が報道をどのように入手しているのかをアンケート調査の結果をもとに確認し、日本人は他国の人々に比べて情報の入手に消極的であり、情報を得ることへの義務感が足りていないことを指摘した。日本人が国際的な情報に需要を感じるようにするためには国際理解を深める必要がある。
 第3章では、日本人の傾向として、異文化交流が少なかった歴史から自国以外の国々に対する無関心さがあると考察した。外国に対して関心を持ち、日本人が外国や国際社会への理解を深めるための方法としてグローバル・シティズンシップ教育の重要性を示した。グローバル・シティズンシップ教育では自己のアイデンティティを軸にして段階的に視野を広げていくことが求められる。
 第4章では、報道の地域格差におけるメディア側の要因と、報道されにくい地域の特徴とを分析した。地域格差が生じる原因は、メディアが日本との類似性や関係性を判断基準に情報を選択しているからだと考えた。国際報道の少なさや偏りは国民の「知る権利」を奪い、国際社会における日本人の知識不足を生じさせる可能性がある。日本の国際化を推進するためにも、国際報道は今後増加させていかなければならない。これらの理由から、重大な国際問題を見逃さないためにも地域ごとで報道量の差をつけず、重要度を見極めて報道すべきだと言及した。
 メディアが国際報道を十分に報道することができるようになったとしても、視聴者が目を向けなければ国際報道においてメディアはその使命を果たすことができない。国際報道の発信方法はメディア側の制約だけでなく日本人の国際情勢に対する向き合い方からも強く影響を受けているため、メディア側の制度改革と同時に国際教育の推進などの視聴者側の意識改革を行い、相乗効果を生み出していくことが求められる。