渡邉ゼミ

ローマ皇帝ハドリアヌス ー旅と建築を中心にー

中川優奈

 本論文では、古代ローマ皇帝ハドリアヌスの建築物をハドリアヌスの人生と旅という視点を踏まえながら考察したものである。
 ハドリアヌスは二度に渡り、長期間の視察旅行を行った。視察旅行には建築士を必ず携えており、ハドリアヌス自身も建築に造詣が深かった。
 第一章では、ハドリアヌスの人生について幼少期から時系列順に述べる。ハドリアヌスは如何にして皇帝になったのかを紐解きながら説明してゆく。そして彼が寵愛したアンティノウスについても記述する。
 第二章ではハドリアヌスのコインに焦点を当て述べる。その中で古代ローマ時代の主なコインのモチーフや込められた意味にも着眼し、考察する。ハドリアヌスがコインを鋳造する中で、皇帝アウグストゥスとの関係が重要となる。アウグストゥスが建設したアントゥーラ記念碑に刻まれている文がハドリアヌスに影響を与えていた。またエレウシスの秘儀についても触れる。
 第三章では、ハドリアヌスがティヴォリに建てた「ヴィッラ・アドリアーナ」の内装や立地、装飾について主に説明する。ハドリアヌスがヴィッラ・アドリアーナの中の建物群に名付けた「カノプスの池」や「テンペの谷」などの地名が主に使用されている。ではなぜ、独自の名称ではなく地名なのだろうかという疑問を考察してゆく。
 第四章では、全ての神々を祀るための神殿として建設された「パンテオン」について説明する。このパンテオンは、当初アウグストゥス帝の側近マルクス・アグリッパによって建設された。度重なる天災により現在我々が目にしているものはハドリアヌスが建設したものである。また、パンテオンの天窓オクルスはなぜ軽度の雨が降っても室内に入らないのか。さらにキリスト教時代、オリュンポス七至上神を祀っていたパンテオンはどのようにして今の形状を保ちながら生き抜いてきたのかについて説明と考察を行う。
 第五章はサンタンジェロ城についてキリスト教との繋がりを交えながら述べる。建設当初はハドリアヌスの霊廟として設立されたが、後に牢獄や避難所として使用されるようになった。17世紀教皇の命によってベルニーニは橋の装飾を行う。装飾には12の天使が用いられ、それらはどれもキリストの受難の証にまつわるものだ。サンタンジェロ城の内装や外装、後のキリスト教とのつながりを説明していく。
 第六章はローマ最大のギリシア神殿の「ウェヌスとローマ神殿」について述べていく。その中で、言葉遊びの「ROMA」と「AMOR」が示す永遠なるローマ。そして内装に使用された色について当時の人々の理想の色などを説明する。
 ハドリアヌスは人生の中で数々の建築を手掛けた。その中で「パンテオン」、「ヴィッラ・アドリアーナ」、「ウェヌスとローマ神殿」、「サンタンジェロ城」に焦点を当てる。これらの建築物がどのような意図で建てられ、どのように使用されてきたのか。建築物を通してハドリアヌスという人物を紐解いていきたい。