石川ゼミ

カナダの日系移民に関わるジェンダー秩序と変遷

小山彩子

 本論文の目的は、カナダにおける日系移民社会の歴史を紐解きながら、現代の日本とカナダを比較することで、女性の国際移動に関わるジェンダー秩序と変遷の背景を明らかにしていくことである。
 第1章では、日系移民社会の歴史を辿りながら、移民女性の地位がどのように変化してきたのか、その背景を考察する。日本からカナダへの移民要因を男女別に比較すると、男性は出稼ぎ目的であったのに対し、女性は移民男性からの呼び寄せによる結婚が中心であった。家庭を築くようになった日系移民社会の中で、家事や育児、家計を支える事が役割とされた女性は、たくましく、教育熱心であった。彼女らに育てられた二世、三世は勤勉で、カナダ社会に徐々に適応していく。三世からは白人社会の中で、国際結婚をする女性が増えていき、そして、現代の日系移民社会へと変化している。
 第2章では、政治・経済分野における、カナダと日本の女性の社会参入を比較し、ジェンダーギャップの差の実態を考察する。日本とカナダの2023年「ジェンダーギャップ・レポート」の男女平等度ランキングは、日本が138位(政治)123位(経済)125位(総合)であるのに対し、カナダは33位(政治)36位(経済)30位(総合)である。実際、カナダは男女同数の内閣を維持しているほか、女性の政治参画の拡大のための教育や啓発を担う市民団体に対する助成金を設けることにより、女性の政治への関心を高めている。しかし、日本は全閣僚20人のうち、女性閣僚は5人、日本の衆議院議員に占める女性議員数の割合は10.3%と数値は低迷している。一方で、経済面では両国共に女性の就業率は上昇しているが、男女の賃金格差は未だに残っている。これには、家事の大部分は女性が行う、育児費用の負担など様々な理由が関係している。
 第3章では、移民受け入れ側のカナダと、日本社会の今後の課題を考察する。カナダに移る女性や留学生が年々増加しており、こうした女性や若者の人材流出は、少子高齢化、将来の労働力不足が懸念される日本の課題となる。具体的に、日系女性移民の増加と移民要因の変化、現在の日系コミュニティ、カナダの移民女性と移民政策について言及する。
 グローバル化が進み、女性の国際移動は以前よりもしやすくなった現代では、個々の生活や社会の形が多様化している。女性の国際移動が社会にポジティブな影響を与えるには、仕事と家庭を両立しやすい環境を整え、社会の仕組みをつくる政治に多くの女性が進出し、多様な意見が反映される社会である必要がある。女性の活躍推進には、他国の政策や姿勢を見習いながら、自国のことを客観的に考えることも大事である。