サバティカル報告

安藤恭子

 2023年度前期、サバティカルを取得しました。この期間にやるべきこととして、私は三つの目標を立てました。その一つは、これまで研究の中心であった宮沢賢治研究について、論文作成のために収集した資料を整理し、構想を具体化することでした。これについては、関連した文献の調査がまだ不十分であることが分かり、今後の課題が発見できたところです。二つ目の目標は、これまで続けてきた創作活動(俳句)に新しい展開をもたらすべく、現在の俳句の状況を分析しつつ、作句活動をおこなうことでした。三つ目の目標は、海外研修に際して、それを充実させるための事前調査を入念におこない、現地での活動を成功させることでした。
 ここでは、海外研修について具体的に報告します。今回の研修のテーマを「日本文化と海外文化の比較研究」とし、とりわけ、ジャポニズムに注目することを考えました。近年、卒業論文指導において、ジャポニズム関係に関心を寄せる学生がいる一方、美術・音楽の考察方法を教える難しさを感じていました。また、比較文化学部のヨーロッパコースに所属することになってから、授業で講義する際にも、ヨーロッパの歴史と文化に関する理解をより深める必要があることも痛感していました。そこで、日本が参加した1867年のパリ万国博覧会ならびに1873年のウィーン万国博覧会をきっかけにしてヨーロッパにジャポニズム(ヤポニズム)が生まれ、日本の美術・工芸品が数多くヨーロッパに渡ったという歴史を踏まえ、ジャポニズムの原点であるパリとウィーンを訪れることにしました。
 ウィーンにおいては、歴史的な施設を訪れることにより、ヨーロッパ史、とりわけ、ハプスブルグ家の事跡についての認識が深まりました。ハプスブルク家2代皇帝マクシミリアン大帝のコレクションを起源とする美術史博物館においては、多くの美術・工芸品を見ることによって、ハプスブルク家の文化的役割とともに、ヨーロッパの美術史への理解が深まりました。また、同館において、中国や日本の文化の吸収の痕跡を直接見ることもできました。
 その他、ベルヴェデーレ宮殿におけるクリムト作品、レオポルド美術館におけるエゴン・シーレなどの近代における美術・工芸品、ゼセッションにおけるクリムトの「ベートーヴェン・フリーズ」など、日本文化との関わりを念頭に見ることができたことも有意義でした。
 ウィーン楽友教会、ウィーン国立歌劇場のガイドツアーにも時間的な都合がついたので参加しました。第二次世界大戦の戦災のため、多大な被害を受けたウィーン国立歌劇場の復興のことなど、文化の継承にどのような努力が費やされたのかということに感銘を受けました。
 フランスにおいては、特にモネに関連した施設を訪れました。浮世絵のコレクターでもあったジベルニーのモネの家には、想像以上に多数の浮世絵が飾られており、同家には日本の美術商も招かれたといいます。フランスのノルマンディー地方を伝統的な風体の日本人が訪れたことは、当地で大きな話題になったとのことです。日本文化との交流から生まれたモネの作品は、しばらく評価が低かったものの、その後モダニズムの芸術家から高く評価され、その歴史的意義が確立しました。日本文化がそうした流れに多大に貢献したことは意義深いものと考えました。
 以上、海外研修の一端について具体的に述べました。サバティカルという時間をいただけたことで、これまでの活動を見直し、新たな展望がひらけたことに感謝したいと思います。