佐藤円ゼミ

小園千陽

 私たち3年ゼミでは、「人種」や「民族」をめぐる諸問題(差別、ジェンダー、格差など)に焦点を当て、それらがどのような価値観・風土に基づいて生まれるのか、なぜそれらの問題が生じ、今も根強く残っているのかについて、様々な教材・映像を用いて学んでいます。
 前期には2冊の教材を用いて報告を行いました。初めに、スチュアート ヘンリ著『民族幻想論―あいまいな民族、つくられた人種』を用い、「人種」「民族」という概念はいったい何なのか、その概念の問題点や矛盾点をゼミ内で突き詰めていきました。各章の担当者は、内容を要約したレジュメをもとに報告を行い、その後質問や疑問点を全員で議論し合い、各々が理解を深めました。次に、青柳まちこ著『国勢調査から考える人種・民族・国籍ーオバマななぜ「黒人」大統領と呼ばれるのか』を用いて、同じく報告を行いました。アメリカやイギリス、日本の国勢調査を比較し、アメリカの国勢調査における「人種」「民族」の複雑な分類の理由とその背景を探りました。
 後期には、緊急事態宣言中はオンライン授業でアメリカの公民権運動に関する動画を視聴し、人種差別是正の大きな一歩を踏み出した1960年代への理解を深めました。対面授業再開後には、アンドリュー・ハッカー著・上坂昇訳『アメリカの二つの国民ー断絶する黒人と白人』を用いて報告を行いました。アメリカにおける黒人の所得・教育・雇用の格差や白人側の反応などの論点から、アメリカの人種問題が黒人と白人の問題であることを前提として、人種問題が発生する理由について検討しました。これらの報告を経て、後期の後半はゼミ生それぞれが関心のあるテーマに基づき、検討している卒論テーマについて発表しています。例えば、女性のキャリア形成、LGBTQIA+、ヒスパニックなど、各々が関心のある視点から「人種」「民族」問題にアプローチしています。一口に「人種」「民族」といっても、その切り口は実に多様で、裏を返せばあらゆる事象と切っても切り離せないものといえます。
 毎回の報告では、ゼミ生と先生の質問や意見に刺激を受けることが頻繁にあります。それが卒論テーマを決める道標になるのはもちろん、自分自身の視野が広がる手ごたえを実感します。また、教材に沿って学ぶだけでなく、その内容を超えた身近な具体例、例えば日本のジェンダー問題が議論に出されることが多いため、女子大ならではの視点から応用して考えるのも醍醐味です。私たち日本人は、「人種」「民族」をめぐる諸問題には縁がないと無意識に考えがちですが、実は私たちが暮らす社会にも似た構造が多く存在していることに、議論を通して気付かされます。
 13名のゼミ生は皆真面目で学ぶ意欲が高く、先生は豊富な知識と実体験から的確なアドバイスをしてくださいます。今後もゼミ生と切磋琢磨しながら、卒論執筆に向けてより多角的な視点を養いたいと思います。