米塚ゼミ

オンラインで伝え合う熱 ―オンライン配信から見るエンタメの今―

椿千優

 本論文の目的は、近年一般化してきた音楽コンサートや演劇の「オンライン配信」の影響により、音楽コンサートや演劇の上演様式が多様化してきている点を明確にし、今後の音楽コンサートや演劇がより人々にとって親しみ深いものになり得る可能性を秘めていることや、今後の課題について考察していくことである。
 この研究テーマを扱おうと思ったきっかけは、自身がオンライン配信を受信する観客側でもあり、一方では配信する演者側でもあるという二つの立場から感じた経験による。筆者は、観劇やコンサート鑑賞が趣味である。直接会場や劇場に足を運ぶことが難しい最近では、オンライン配信というコンテンツを頻繁に利用する観客(視聴者)の一人である。また一方では、自身が役者として舞台に立ち、オンライン配信というコンテンツを利用して演劇を行う演者でもある。昨今のコロナ禍において、どうにかエンターテイメントの灯を消さぬようにと業界の人々が様々な試行錯誤を繰り返す中で、観客からも演者からも多くの注目を集め出したのが「オンライン配信」であることに気が付き、研究対象として選択した。「観客」と「演者」という二つの側面から、現在「オンライン配信」がどれほど音楽コンサートや演劇などのエンターテイメント業界で重要な役割を担っているのか、また今後さらに価値あるものになっていくのか、分析・考察を行ってみたいと考えたのである。
 第 2 章では、主に河竹登志夫の『演劇概論』、勝畑田鶴子の「演劇における演者と観客間の相互作用に関する一考察:ポストドラマ演劇の可能性」などの先行研究を引用、参照して、「演劇」を成立させるための要素について考察した。その結果、「演劇」を構成するにあたって必要となる要素は、「俳優」「戯曲」「観客」の三要素であり、さらにこの三要素に加え、俳優と観客の相互の「現前性」が重要な鍵であることが明確になった。
 第 3 章では、筆者自身の経験とインターネットでの調査により、実際に行われたオンライン配信の演劇やコンサートの実例を挙げながら、第 2 章で明確になった演劇を構成する要素を欠いていないかを重点的に検討しつつ、オンライン配信の多様性について分析をした。その結果、オンライン配信は「演劇」「コンサート」を成立させるための条件を欠くことなく、オンライン配信であるからこそ加えることができる要素を組み込みながら、様々な上演様式が確立されてきていることがわかった。さらに、オンライン配信を行う集団が増えるほどオンライン配信の多様性は増し、今後もさらなる多様化が進むことが予測できた。
 第 4 章では主に野村総合研究所による研究結果をもとに、現在のオンライン配信がどのように人々から受容されているのかを分析し、今後のオンライン配信に対する需要を予測した。その結果、オンライン配信を視聴する人々の数は、新型コロナウイルス感染拡大後から増加傾向にあった。加えて、コロナ禍という状況下によりオンライン配信を視聴する選択をした人も少なくはないが、コロナ禍が収束した後でもオンライン配信は行ってほしいと望む人々も存在することが判明した。また、オンライン配信を視聴する人の半数以上が、オンラインイベントの主催者・興行主・出演者に対する金銭的支援意向を持ち合わせていることも明らかとなり、エンターテインメントを愛する人々が力を合わせ、互いの存在を意識しながら行われているのがオンライン配信なのであると筆者は確信したのであった。