赤松ゼミ

アジアにおける男性同性愛表象-BL文化を中心に

長谷ほのか

 本稿では、アジアにおける男性同性愛表象について、BL文化を中心にしながら来歴を辿り、 比較分析を行い、アジア各国の男性同性愛表象の特質とその受容を明らかにした。
 第1章では、日本における男性同性愛表象の歴史を辿った。その結果、日本の男性同性愛表象はマンガと映像作品がそれぞれ異なった形で発展したことが分かった。しかし、BLマンガの大きなブームによってファンが増えると、BLファンが男性同性愛を描く映像作品を観に行ったり、BLマンガが原作の映像作品が制作されたりと、マンガを主とするBL文化が映像作品に影響を与え始めたことが明らかとなった。
 第2章では、中国、韓国、タイ、そして台湾を取り上げ、男性同性愛表象の歴史を辿り、各国における男性同性愛表象の特質や受容について明らかにした。中国と韓国、台湾ではいずれも1980年代半ばから 1990 年代頃に日本からBLマンガと「やおい」が流入したことがBL文化の流行のきっかけであった。しかし、現在では日本と異なった各国独自の変容が見られた。中国では、日本のBL文化と西洋のBL文化である「スラッシュ」を掛け合わせて「耽美」というジャン ルが形成されたことが明らかとなった。韓国では、BL文化の流行とは反対に「脱BL」というBLに批判的な意見が存在することが分かった。台湾では、同性婚合法化運動にBLファンが関わっており、BLが現実社会にも影響を与えたことが確認できた。一方、タイのBL文化の発展は日本だけでなく、韓国のK-POPブームの影響が大きいことが明らかとなった。また、現実のゲイカップルのファンや、BLドラマの制作などタイ独自のBL文化の発展が見られた。
 第3章では、日本、タイ、そして台湾の男性同性愛をテーマとした映像作品を具体的に取り上げて分析し、各作品の同性愛の描き方を考察した。今回取り上げた日本の男性同性愛表象には、BLにおいて王道と呼ばれるような典型的な作品は無かった。反対に、タイでは典型的なBLのパターンに当てはまる作品が多かったが、今後多様な作品が制作されていく可能性が感じられた。台湾では、海外での人気を意識して典型的なBL表現を用いた男性同性愛表象を制作しているのではないかと考えた。
 このように、BL文化を中心としながら、アジアの男性同性愛表象について見てきた結果、日本から広まったBL文化はアジアの男性同性愛表象に影響を与えたことが分かった。そして、各国でBL文化は発展し、男性同性愛表象は大きな人気を得ていることが明らかとなった。 男性同性愛表象は現実社会を変えるきっかけとなる可能性を大いに秘めている。同性婚法制化に男性同性愛表象の人気を活用することで、BL文化の源流である日本が男性同性愛表象の可能性を他国に示すことを期待したい。