比較文化学会総会 記念講演 要旨

比較文化学会 記念講演会 報告

上野未央

 2021年度の比較文化学会では、中近世スペイン史がご専門の関哲行先生をお招きし、「中近世スペインのユダヤ人とコンベルソ(改宗ユダヤ人)」というタイトルでご講演いただきました。新型コロナウィルス感染症対策のために、ご講演はオンラインで行われ、教職員のみ会場でお話をうかがうという形での開催となりました。
 ご講演では、まず、ユダヤ人と一口にいっても様々な人々がいることが伝えられたうえで、ユダヤ教の宗教儀礼、キリスト教とイスラム教との関係についての説明がありました。また、日本とユダヤ人との関わりについても紹介されました。日本にきたイエズス会士たちの中にもコンベルソ(改宗してキリスト教徒になったユダヤ人)がいたことや、1930年代の河豚計画などが挙げられました。ここまでが、ご講演の「はじめに」にあたる部分だったのですが、ユダヤ人の歴史の複雑さが伝わってきて大いに興味をひかれました。
 続いて、関先生のお話は本講演の中心的主題であるコンベルソへと移っていきました。中世末期には、ヨーロッパにおけるユダヤ人観の変容の影響もあり、スペインでコンベルソが増加したとされます。そして、コンベルソを団体や官職等から排除する「血の純潔規約」が広く見られるようになっていったということでした。これは、現代的な意味とは異なるものの、家系や血統を問題視する考え方があったということでしょう。この「血の純潔規約」が実際にどの程度適用されたのか、社会においてどのような意味を持ったのかについて、近年の学界における議論も紹介されました。さらに、「血の純潔規約」と密接に関わる制度として、近世スペインの異端審問制度も取り上げられ、その実態についても脱神話化を図るべきであると先生は指摘されました。
 全体を通して、「実際にはどうだったのか」という視点から、物事をとらえなおすことが強調されていたと思います。「○○という制度があった」というだけでは、その時代に生きた人々の姿は見えてきません。様々な事例を丁寧に考察することで、ある制度に影響を受けた人々の姿を浮かび上がらせることができるのだと、私も再認識させられました。また、マイノリティに着目した歴史研究の魅力と、その難しさや複雑さも、ご講演を通して伝わってきました。学生たちにとって、現在しばしば言及される「多様性の重視」ということについても考える一つのきっかけになったのではないかと思います。
 なお、ご講演後には少人数での情報交換会が行われました。そこでも、歴史の中のマイノリティや、近世日本の海外との関わりについてなど、関先生を囲んで議論が大いに盛り上がったことを、付け加えておきたいと思います。