特別講義要旨

劉靈均「記憶は忘却を抗うためー台湾LGBT運動と文化:文学と大衆文化」

赤松美和子

 10月21日(木)「アジア文化研究AⅡ(近代文学)」の授業において、台湾文学研究者で関西とアジアのLGBTを繋げる団体「関西同志聯盟」共同代表でもある劉靈均先生をお招きし、「記憶は忘却を抗うためー台湾LGBT運動と文化:文学と大衆文化」と題して、ご講演いただきました。
 学生たちは、あらかじめ劉靈均先生が台湾のLGBTQについて講義されているYouTube番組「台湾修学旅行アカデミー by SNET台湾 第9回 台湾のLGBTQ」を各自視聴し、予習したうえで授業にのぞみました。YouTube講義では、台湾が2019年に同性婚合法化に至るまでの、痛ましい事件、法整備の過程、また人々の意識を変えたポップカルチャーの力や同志文学についてお話になっています。
 今回の講演では、特に文学にフォーカスしてお話いただきました。まず、台湾の「同志文学」とは何か?その起源について確認したうえで、白先勇『孽子』、邱妙津『ある鰐の手記』(1994)、呉継文『世紀末少年愛読本』(1996)『天河撩乱』(1998)、洪凌のクィアSF、徐嘉澤『次の夜明けに』(2012)など日本語で読める作品を中心に台湾文学を具体的に紹介くださいました。さらに、三島由紀夫と川端康成、70年代の新宿とゲイリブ、少年愛など台湾文学と日本との深いかかわりについても解説したうえで、日本のLGBT文学の脱政治性の問題についても指摘されました。
 アジアでいち早くLGBTQ文化が発展した台湾は、東北アジア、中国、東南アジアの交差点であり、華人文化圏/中国語圏の中で比較的に自由な国であると同時に、冷戦以降はアメリカの影響をポジティブにもネガティブにも受けてきた地域でもあります。こうした台湾のLGBTQ文化を牽引してきた同志文学のハブ的な役割についても整理分析するとともに、新しい連帯の可能性についてもご教示いただきました。
 学生たちからは、今、日本がジェンダー平等のために一番に取り組むべきことは何でしょうか。台湾ではジェンダーやLGBTQに対する若者と高齢者の世代間の意識や理解のギャップはないのでしょうか。台湾で日本のBLはどのように受け入れられていったのでしょうかといった質問が寄せられました。