銭ゼミ

現代中国における日本の大衆文化の受容
 -対日感情と受容態度の関係性-

舟田瑞生

 現在インターネットが盛んに発達し、身近に友人や知人はもちろん国境を越えた人々ともソーシャルメディアなどを通して交流出来る時代になっている。またそのような手段を通して異文化に触れ、他国の人々の暮らしや考え方を受容することも出来るようになっているのである。
 中国では2000年代頃からインターネットなどを通じて、活発に日本の大衆文化を受容するようになった。長い間テレビや漫画を通じて、日本のアニメや漫画といったものを好み、関連のイベントに足を頻繁に運び、日本の作品に触れる若者が多い。また中国へのアニメ配信サイトでも、人々の受容に合わせたサービスを提供し、中国における市場の拡大を推し進めてきた。
 一方日中関係が2000年代に入ってから、政治的問題を背景に悪化の傾向が見られた。尖閣諸島問題や日本の政治家による靖国参拝などの問題に関連し、中国各地では反日デモが頻繁に行われるなど、一時期中国での反日感情が高まっていた。私は反日感情が高まる中国で、日本の大衆文化がどう扱われ、どう受容され続けてきたのかといつも疑問を抱いてきた。本論文はその疑問を答えるべく、その実態と背景を検討することを目的とし、また今後の中国における日本の大衆文化の在り方についても考えてみた。
 日本の大衆文化は80年代を皮切りにアニメや漫画、90年代ではドラマなどを通じて中国で発展を遂げ人気を得ていた。2000年代に入るとその人気が急激に加速し、アニメや漫画といった大衆文化がインターネット上を中心に、より多くの人々に身近なものとして楽しまれるようになっている。これに対して中国の対日感情は、80〜90年代は国家レベルにおいても国民レベルにおいても悪化の傾向がなかったが、2000年代に入ると政治的な背景を理由に悪化が顕著に見られた。但しその間でも、日本の大衆文化を好み続けた若者が多く、また彼らのなかに大衆文化に触れたことで対日感情に変化が見られたという人もいた。その背後にはまず消費者である若者たちの需要に大いに応えた企業の様々な取り組みやサービスがあった。そして市場の拡大とともに、若者の日本のアニメ文化への愛着という相乗効果をも生み出し、結果として反日感情が進む社会でも日本の大衆文化の受容が推し進められたということがわかった。
 つまり反日感情が高まる中で、中国におけるアニメ・漫画市場の拡大こそが、日本の大衆文化を好む中国の若者の産出につながり、中国における日本の大衆文化の受容環境の形成に寄与し、人々の対日感情に変化をもたらす好循環を作るきっかけになっていたということができる。日本の大衆文化に触れることが、今後とも中国の人びとの日本への理解を深めるための一つの方法であってほしいと願うばかりである。