安藤ゼミ

現代日本におけるベジタリアン受容
―食文化と産業構造の形成との相互作用について―

荒井晴日

 現代日本では、日本食のみならず、イタリアンやフレンチ、エスニック料理など、バラエティに富んだ「食」が展開されている。しかし、さまざまな「食」の選択肢が近年広がってきているとはいえ、ベジタリアンは未だ日本人の日常生活に浸透していない。
 本論では、ベジタリアンの起源に言及することからはじまり、日本や海外諸国を取り巻く食環境を歴史的に考察した。その上で、現代日本においてベジタリアンが浸透しない要因が何であるのかについて論じた。
 第一章では、ベジタリアンの起源と日本の関係について取り上げた。ベジタリアンという言葉の語源は、「“uesere”:~に生命を与える」や、「‟vegetus”:活発な・力強い・健全な」といった意味をもつラテン語であると考えられており、1847年創立のイギリスベジタリアン協会によってつくられた。ベジタリアンという言葉は、「菜食」や「菜食主義者」を意味するものとして、明治中頃の日本にもたらされた。
 第二章では、日本における「食」と経済・産業構造の関係について論じた。第二次世界大戦後の日本はアメリカの傘下となり、海外産の安価な肉が大量に輸入された。その結果、大量輸入・大量消費を前提とした肉食文化が国内に根付いた。しかし、それは同時に、伝統的な地域料理の衰退や食糧自給率の低下を引き起こしたのである。
 第三章では、文化的差異から生まれる「食」の在り方を考察した。具体的には、日本と海外諸国の教育現場で展開される昼食の形式や、家庭における食環境を比較・検討した。最終的には、日本と海外におけるベジタリアンに対して、教育現場と家庭環境といった2つの要素がどのような影響を与えるのかといった点について論じた。
 食べることは、生きることと直結する問題である。だからこそ、「食」をめぐる問題は、時に人々を対立させる。個人における「食」のスタイルは、その人がどういう生き方をしたいのか、あるいはしたくないのか、という一種の意思表示である。ベジタリアンという生き方を選択することも、その意思表示の一つである。「食」の選択に関わることとしては、信仰にもとづく思想、動物愛護や環境保護の精神、健康志向などが挙げられる。現代におけるベジタリアンは、多様な「食」の選択肢の中にある一つの生き方であると同時に、その在り方もまた多様なのである。
 現代における多様なベジタリアンの状況を考えることは、「食」をめぐるさまざまな問題を再考する契機となり、新たな「食」の可能性を構築することにもつながると考える。「食」に恵まれた現代日本だからこそ、率先して「食」をめぐる現状と向き合うべきであり、持続可能な未来へとつなげていく責任がある。その方法論として、また、今後の「食」の新しい可能性を考察する上でも、ベジタリアンを理解することには意義があり、重要であると考える。