貫井ゼミ

19世紀フランスにおけるジャポニスム
-印象派の画家たちは浮世絵の何を見たのか-

吉場百希

 本論文では、19世紀に西洋で流行した日本趣味「ジャポニスム」を軸とし、なぜこの流行が19世紀のフランスにおいて熱狂的とまで言われる一大ブームを巻き起こしたのか、その要因について論じていく。また、「ジャポニスム」の流行下で印象派の画家たちは浮世絵のどういった部分に着目し自分自身の作品に取り入れていったのか、三人の画家を取り上げそれぞれの着眼点の違いを明らかにしていく。
 まず、序章では「ジャポニスム」の概要について述べる。「ジャポニスム」とは、19世紀後半に西洋の美術に影響を与えた日本美術の影響、また日本美術からヒントを得て新しい視覚表現を追求したもののことを言う。
 第一章では、印象派の誕生の歴史と特徴について述べる。19世紀の美術は伝統的な絵画様式を規範とする美術アカデミーの考えが絶対であったが、その価値観を否定し、新しい絵画様式を生み出したのが印象派の画家たちであった。彼らは自分たちで展覧会を開くことに至るが、非難の嵐を浴びることになる。それは、彼らの絵画があまりに革新的すぎたからだ。その革新性は、戸外で制作した点、「筆触分割」という技法を用いた点、都市の生活を主題としている点、これら三つの特徴に見られる。
 第二章では、浮世絵の諸相と特徴について述べる。浮世絵は鎖国下の江戸庶民によって生み出され、菱川師宣が一つの独立したジャンルとして確立させた。浮世絵の特徴は、鮮やかな色彩、大胆な構図、余白である。これらの特徴は、新たな様式を追求した印象派の画家たちの興味を引き寄せ、「ジャポニスム」の流行に大きく起因した。
 第三章では、「ジャポニスム」の流行の要因と三人の画家における影響について述べる。「ジャポニスム」は、日本の美術工芸品が開国によって西洋に周知されるようになったことをきっかけとし、万国博覧会の開催、日本美術の専門的概説書の刊行、日本と西洋の美術の仲介役として尽力した人々の活躍などによって流行を見せるようになった。その流行下において、モネは浮世絵の俯瞰構図や明るい色彩、ドガは『北斎漫画』の動きの表現、ゴッホは平坦な色面構成と大胆な構図を作品に取り入れた。しかし彼らは、単に日本のモティーフをそのまま取り入れるのではなく、浮世絵に見られる革新的な要素を効果的に自身の作品に取り入れたのである。終章では、以上のまとめと今後の課題について述べた。