上野ゼミ

ヴィクトリア朝の女性たちと紅茶文化―「家庭の天使」だったのか―

貝塚里美

 本論文では紅茶の歴史、および紅茶文化とヴィクトリア朝の女性たちについて取り上げ、「家庭の天使」について考える。第1章では紅茶の歴史と紅茶文化の1つであるアフタヌーンティーを取り上げる。イギリスに紅茶がいつ頃輸入され、どのようにして多くの人に飲まれるようになったのか、また、交流の場としてのアフタヌーンティーにはどのような決まりや特徴があるのかをみていく。第2章ではヴィクトリア朝の女性について取り上げる。男女での立場の違いや主婦の役割について述べ、家庭を守り、夫を癒すとされている、「家庭の天使」である主婦たちは、どのような生活を送っていたのかをみていく。第3章では実際の主婦の役割を踏まえて、女性にどのような影響力があり、何を求められていたのかをみていく。そのうえで「家庭の天使」について論じ、ヴィクトリア朝の女性たちは「家庭の天使」であったのかを考える。
 ヴィクトリア朝の女性たちが「家庭の天使」であったのかという疑問に対して、日常生活では家庭を守りながら夫を支える「家庭の天使」であったと考えるが、第1章で取り上げたアフタヌーンティーの場では「家庭の天使」ではなかったと筆者は考える。日常生活では家庭の仕事をしながら、夫のため、子どものために尽くしていたことから、自分のことよりも家庭を重視していると考える。しかし、アフタヌーンティーの場ではティールームやティーセットを通して自分らしさを表現する機会が多くあった。アフタヌーンティーの場は、夫や子どもの将来のためのつながりの場でもあると思うが、第一に自分の楽しみのための場であると考える。これは家庭を守り、夫を癒すという「家庭の天使」とはまた違った側面であるのではないか。主婦たちの楽しみとして、自分らしさが発揮できる場としての紅茶を飲む場は、女性たちにとっての息抜きの場となっていたのではないだろうか。
 また、ヴィクトリア朝の女性たちに「家庭の天使」という理想像が掲げられた背景としては、ヴィクトリア女王が家庭を大切にしながら公務を全うしていたというイメージが伝えられたことが関係している。そのために主婦たちもまた、家庭を守りながら夫を支える能力を求められたのではないだろうか。女性の家庭での権利が強くなったことで、より一層「家庭の天使」として多くのことを求められていたと考える。そのなかで、女性たちが自分らしさを発揮できたのがアフタヌーンティーの場であったと考える。