怖いを味わう―絵本で描く恐怖と不安の目的―

國分友花

米塚ゼミ

 本論文の目的は、絵本の数あるジャンルの中から、恐怖や不安といった「怖い」が含まれる作品に注目し、これらの絵本が子供たちに好まれる理由と絵本が表現する恐怖や不安が物語の主人公を通して子供たちの成長過程に与える影響について考えることである。
 第2章では、子供を中心とした恐怖心と不安感を考え、私たち人間が恐怖や不安を感じはじめる原因と、子供たちの怖さの対象基準、子供の年齢差で怖さの対象は変化するのか、さらに怖さを認識した際、子供たちの反応がどのように心身の発達に関係するか論じるとする。人間は経験を重ねることで怖さを身に着けていくことが明らかとなった。また、幼児期は外界の存在と現実認識の高まりによって、怖さの対象に変化が見られる。子供は恐怖による負荷が大きく、怖さを多く経験し慣れることで、恐怖による負荷が減らせ、怖さの克服が心身の成長と安定をもたらすことが明らかとなった。
 第3章では、絵本の主人公に焦点を当てるとする。佐々木宏子・鳴門教育大学付属図書館児童書室が制作した『子どもの心を理解するための絵本データベース』内の怖い絵本に分類される絵本を集計し、怖い絵本に共通する要素を調査すると同時に、怖い絵本の主人公は怖さを経験した際にどのような行動を取るのか、実際に幾つかの絵本を用いて分析していくとする。集計の結果、特筆すべきは主人公の男女比がステレオタイプ化された性別役割分業の影響を受けている点。母子の分離は子供の精神状態を左右し、作品の中で母子の分離と再会が共に描かれる点。空想遊びの遊び相手に自らの恐怖や不安を投影し、彼らと遊ぶことで恐怖や不安との向き合い方や乗り越え方を獲得していく点。これら3つが共通点として挙げられた。
 第4章では、絵そのものが絵本の世界の大部分を表している場合、絵本の中の文字の立ち位置に注目し、読み聞かせを通して文字が絵本の怖さを助長させる可能性について論じるとする。読み聞かせは音によって登場人物の心情や出来事の状態を知る手段であり、子供たちの語彙力や想像力を豊かにする作用が明らかとなった。怖い絵本における文字の価値は、絵で表現出来る漠然とした怖さに文字を補い、詳細な情報を加えることが可能な点であり、子供が次の展開を予測し想像力を引き出すことで、怖い絵本を読む緊張感に繋がることが明らかとなった。
 子どもは身近に起きる出来事を怖さの対象とするも、対処する術を持たず生活を送る。この時の恐怖との関わり方がその後の成長に大きく影響を与える。怖い絵本の主人公は子供たちの心境や生活環境を如実に再現しつつ、物語終盤で必ず恐怖や不安を克服・解消する。子どもたちは主人公が持つ恐怖や不安を自分と照らし合わせ、彼らが物語の中で恐怖や不安に打ち勝つ姿を望んで絵本を読む。主人公が恐怖や不安を克服する姿に憧れるため子どもたちは怖い絵本を好むのである。