前と後の時空迷宮
―国語辞典にみる「さき」と「あと」―

首藤優茉

佐藤実ゼミ

 本論は、それぞれ過去と未来両方の意味で使われる「前」と「後」について、『日本国語大辞典』と『デジタル大辞泉』と『広辞苑 第七版』の語釈を中心に考察する。また、「前」と「後」の語釈に類義語や対義語として頻出する「先」についても取り上げる。
 第1章では、「前」についてまとめる。3節の構成となっており、第1節は「前」を「まえ」と読む場合について、第2節は「ぜん」と読む場合について、各辞書の語釈をみていく。第3節では、章のまとめと考察をする。
 第2章では、「後」についてまとめる。6節の構成となっており、第1節は「後」を「あと」と読む場合について、第2節は「うしろ」と読む場合について、第3節は「のち」と読む場合について、第4節は「ご」と読む場合について、各辞書の語釈をみていく。第5節で章のまとめと考察をし、第6節では、第2章の中で生じた疑問について考察をする。
 第3章では、「先」についてまとめる。4節の構成となっており、第1節は「先」を「さき」と読む場合について、第2節は「せん」と読む場合について、各辞書の語釈をみていく。第3節で章のまとめと考察をし、第4節では、第3章の中で生じた疑問について考察をする。
 結果として、「前」という言葉には未来のイメージもあるはずだが、どの辞典にも未来を表す語釈は無く、過去の意味しか書かれていなかった。そして、「あと」及び「うしろ」には、未来の意味も、過去の意味もあった。未来と過去という、対義と考えられる語釈が記載されていることについては、時間の見方を変えることで説明ができた。それから、「のち」及び「ご」には、過去を示す用法は無く、未来を示す用法のみが記載されていた。また、辞典の例文から、今日、過去を表すには、「あと」ではなく、「うしろ」が使用されているという推察ができた。これらのことから、読み方による使い分けが進んでいるのかもしれないと考えられる。「先」については、「せん」と読む場合には過去の意味のみであったが、「さき」と読む場合には、過去と未来の両方の意味があった。過去と未来という、対義と考えられる語釈が記載されていることについてこちらは、空間的な先の定義から考えていくことで説明ができた。
 以上の通りに本論は展開されている。