再生可能エネルギー普及のための取り組みについて―自治体主体の必要性と消費者意識―

阿部千夏

井上ゼミ

 この論文では、日本における再生可能エネルギー(以下、再エネ)の普及に向けて、(1)地域の特色にあった制度をつくること、(2)消費者の意識を環境に向けること、(3)企業との協働で付加価値を高めること、の3点が重要であることを主張している。既に再エネに取り組んでいる例の多くは、国内外問わず自治体が主導して行うことで取り組みが前進していることから、取り組みのアクターを自治体に定めて研究した。
 まず第1章では、再エネを導入するべき理由として気候変動問題とエネルギー安全保障問題を挙げ、分散型電源を利用したマイクログリッドを導入することの必要性を述べた。再エネ普及率の数字を上げるだけではなく、持続的に運用することが真の普及であるとし、そのためには政府主導ではなく自治体による供給つまりマイクログリッド運営が必要であると述べた。
 次に第2章では、なぜ自治体に議論の焦点を当てるべきなのかを論じるために、地域単位で再エネに取り組むドイツの例から、再エネが地域経済に与える影響を概観した。また、温暖化対策に消極的な政府の意向と反して再エネを進めるアメリカの例からは、小規模でも取り組みを進めることの意義を確認することができた。そして、たとえドイツやアメリカと異なり中央集権国家である日本であっても、電力自由化によってトップダウンからボトムアップへ転換が可能であり、必要でもあると論じた。
 それでは、日本において再エネ導入を進めるにはどうすればよいか。第2章の検討を踏まえて、第3章では再エネ事業に市民が参加し、ボトムアップ的に変化していくためには、市民の環境意識を高める必要があることを示した。環境先進国であるドイツは、市民の環境意識の高さによって緑の党が支持されるなど、自発的に環境問題に取り組んでいる様子がうかがえる。その要因に学校での環境意識育成教育があることを述べた。日本では環境問題への早急な対応が求められているため、意識育成に時間がかかる教育に代わるものとして防災意識の刺激による再エネ導入促進が有効であることを、実際に事業展開の成功を見た東日本大震災以降の再エネ事業活性化を取り上げて論じた。
 ただ、防災意識の高まりから自治体が取り組むだけでは、日本において再エネ促進は実現しない。実際に導入に失敗する事業もある。そこで、最後に第4章では、ドイツシュタットベルケと国内で再エネ導入に成功している福岡県みやま市の事例を比較することによって、日本で自治体による再エネ事業の成功要因を検討した。その結果、配電網の所有や企業との協働の有無が双方の異なる点であることがわかった。そして日本で自治体によるエネルギー地産地消を拡大するためには、企業との協働を促進し自治体と企業側の付加価値を高めることが重要であると述べた。この付加価値は消費者に対しても、再エネが連想させる高コストや手間といったイメージを払拭することに繋がると考察した。
 日本では地方で少しずつ再エネ利用、エネルギーの地産地消が進んでいるが、大都市、中規模都市ではまだ導入が進んでいないなど、まだ大きなうねりにはなっていない。第2章から第4章の議論を通じて、日本において再エネをこれまで以上に普及させるためには、(1)第2章で示唆した通り地域の特色にあった制度をつくること、(2)第3章で指摘したように消費者の意識を環境に向けること、(3)第4章で論じたように企業との協働で付加価値を高めること、の3点が重要となる。そしてこれらは互いに影響しあっており、いずれかひとつが欠けては自治体によるエネルギー地産地消の拡大には繋がらないと考察した。