ポピュリズムとは何か
―欧州と日本の比較―

池田悠莉

武田ゼミ

 Brexit、フランスの国民連合(旧党名:国民戦線)、ドナルド・トランプなど、近年欧米諸国で影響を及ぼしている政治的動きはポピュリズムと呼ばれている。しかし、日本では欧米諸国と比べるとポピュリズムの潮流を感じられないのは何故か。現在の日本においてもポピュリズムという運動があるというのは有り得ない話ではないのに、それが世論において大きな話題に上らない理由には様々な要因があるように思われる。
 この問題意識から、本論文ではポピュリズムを2010年代以降に台頭した既存の権力を否定する政治スタイルであると捉え、その諸側面について日本と欧米諸国を比較する。そして、ポピュリズムの影響力に差がある要因と今後の日本におけるポピュリズム的動きの可能性についての考察を目的とする。
 第一章では、世界的に見た時のポピュリズムの起源とその歴史を明らかににし、広範で流動的なポピュリズムという言葉が示すものが何かについて論じる。ポピュリズムとは、19世紀末のアメリカ合衆国で起きた人民解放運動が起源だが、多くの学者がその広範で流動的な定義について述べており、ポピュリズムについて決まった明確な定義をすることが困難であることが指摘されている。それらを踏まえたうえで本論文におけるポピュリズムの定義を「特定のイデオロギーにとらわれず、自らを人民の代表として人民の声を反映していると主張し、エリート層や既存の権力を否定する政治スタイル」とした。
 第二章では、近年の欧米諸国におけるポピュリズムの具体的な展開について論ずる。共通する主な背景は、冷戦終結によるリベラルな秩序の崩壊、移民・難民増加による反グローバル化、中間団体の衰退とメディアの変容である。ポピュリズムは近年の欧米社会を脆弱化させた政治的弱点をつき、反グローバル化、エリート批判を人民の代表という立場で主張(支配エリートのもつイデオロギーや価値観が変わればポピュリズムの主張もそれに対応)する。また、間接民主主義、代表制、中間団体への依存に反発し、インターネット、ソーシャルメディアなどを利用し、そうした主張を有権者に直接訴えかけるスタイルを特徴とする。
 第三章では、昨今の日本で起きた政治的事象と日本人の意識を照らし合わせた。東京や大阪などの大都市圏による地域政党の躍進ぶりや新興政党の議席獲得などを踏まえると、反エスタブリッシュメント感情や強いリーダーを求める気持ちなど、欧米諸国のポピュリズムに共通する要素が日本にもあることは否定できないだろう。しかし、投票行動や意識調査の結果を鑑みると、日本人は中庸的な考えであることが分かり、欧米諸国にある人種問題や移民・難民の問題も深刻ではない。加えて、日本の若者たちは現代社会に漠然とした不安を抱えながらも、日常の生活に小さな幸せを見つけて満足し、政治に対して無力さを感じていることも中道政治に影響を及ぼしている。
 結果、日本にもポピュリズム的潮流があるが、それが政治の中心となる現象が起こらないのは、経済の安定感による国民の中庸的な意識、盤石な政治的主流派と存在感の弱い野党に加えて、若者の政治に対する無気力な意識や行動が要因であると考える。したがって、現状の日本でポピュリズム的動きがあってもそれが政治の中心を占める可能性は低いと考えられる。
 しかし、それは現時点での考察であって、今後の社会が大きく変化すれば国内にポピュリズムが蔓延したり、逆に政治的主流派に対する反対派の存在が弱まり続けることで、緩やかに専制政治化したりする可能性も秘めている。いずれにしても人々は得体の知れないポピュリズムに踊らされるのではなく、ポピュリズムと呼ばれているものの実態を知ったうえで、自分自身で考えながら政治に積極的に関わっていくことが望まれる。