異人種間結婚を通して見るアメリカ社会

清水葵

佐藤円ゼミ

 本稿では、現在アメリカ社会の結婚市場において、社会的に構築された「人種」と個人の契約である「結婚」がどのように関係しているのかを明らかにしようと考え、1967年まで約300年間施行されていた異人種間結婚禁止法に焦点を当て検討を試みた。
 まず、第1章では異人種間結婚禁止法の歴史を奴隷制時代、南北戦争以降、20世紀以降と時系列順に説明し、そしてなぜ異人種間結婚禁止法が必要だったのかについて論じた。第2章では現在の異人種間結婚の状況から、かつて黒人側だったアジア系やヒスパニックの白人との結婚の割合は増加しているのに比べ、なぜ「黒人」だけが今も白人との異人種間結婚の割合が低いのか分析することで「人種」と「結婚」がどのように関係しているのか、そして異人種間結婚禁止法は現在にどのような影響をもたらしているのかについて論じた。
 以上の分析から、結婚市場だけでなくアメリカ社会に「黒人例外主義」が存在していることが明らかになった。「新しい移民」であるアジア系やヒスパニックと白人の間の人種の境界線が急速になくなっているのに対し、黒人の前に引かれた境界線は全く消えていない。黒人との結婚に対し「家族や周囲からの批判」「社会的下降」「文化的違い」など大きな壁が存在しているという意識を白人、アジア系、ヒスパニックが強く持っているが故に黒人は結婚相手の選択肢から除外されるのである。また、黒人と白人の結婚の割合が低い理由は、黒人が選ばれないだけでなく、黒人も白人を選択しないことが分かった。それには黒人にはアジア系やヒスパックよりも長い間虐げられてきた歴史があることや、黒人に対する人種差別が現在も続いていることが大きく関係している。白人と結婚した黒人は「裏切り者」という意識が黒人にはあるのだ。そして、黒人男性の方が黒人女性よりも異人種間結婚をする割合が2倍も高いが、これは黒人女性が「黒人」としてだけでなく「女性」としても差別を受けてきた歴史、そして黒人男性、黒人女性を支配し虐げてきたのが「白人男性」という歴史が大きく関係している。さらに、異人種間結婚禁止の歴史は黒人にも白人にも「黒人と白人の異人種間結婚には介入、批判するしてもよい」という意識を持たせており、これは異人種間結婚禁止法が現在に残した大きな負の遺産である。それでも、人種の境界線を越えて結婚をする黒人と白人がいる。ユーチューブに掲載されている4つの異人種間夫婦のインタビュー動画から、「人種」というものを越えて結婚をした夫婦は、家族や周囲の人間から批判を受けても、自分たちの結婚(黒人と白人の夫婦の結婚)は「他の誰も介入することのできない自分たちの結婚だ」という意識を持っており、黒人と白人の異人種間夫婦の存在は、結婚は基本的人権であること、そしてたとえ親でも彼らが幸せになる権利を奪う資格はないことが分かる。