色彩とジェンダー―性別による色分けとピンク色からみるジェンダー観―

林部有紗

石川ゼミ

 本論文は、色がもたらす男性・女性イメージの刷り込み、性別と色を結びつける文化やその歴史を、特に女性性との結びつきの強いピンクに焦点を当て、色にまつわる様々なジェンダー事例を挙げて考察したものである。
 第一章の第一節では、日本では、幼少期の頃から玩具やランドセル、大人になってもトイレのマークなどによって、性別による色分けを繰り返し経験していることを述べた。男性=黒・ブルー・寒色系、女性=赤・ピンク・暖色系といった性別と色に対しての固定観念、つまりジェンダー・ステレオタイプとはなにかということについても、自身が経験した身の回りの事例、海外の事例を交えて述べている。第二節ではトイレのマーク、第三節では乳幼児用品、第四節では衣類と、色で性別を分けているものの代表例を挙げて、色に対するジェンダーイメージは世界共通なのかを明らかにした。トイレの色分けは日本発祥であり、ベビー服の色分けはイギリス由来の風習である。色のない時代を経た戦後、ブルーは男の子、ピンクは女の子と設定したのはアメリカのアパレルメーカーであった。男性が簡素な色の服が多いのは、一九世紀英国で生まれた「ダンディズム」という男性精神の名残であり、女性がピンクの服を好んで着るようになったのは、第三四代米国大統領の夫人がきっかけであった。
 第二章の第一節では、ピンクが持つ色彩効果やジェンダーの視点から、世界各国のピンクが与えるイメージを考察した。世界的にピンクは女性らしさを象徴する色であり、赤よりも熱気や力強さに欠けることから、いずれの国の国旗にも用いられていない。第二節では、ピンクの歴史を辿り、一八世紀フランスの流行色であることが分かった。第三節では、日本においてピンクが女性の色のイメージとして広まっていく過程を言及した。第四節では、カナダのピンクシャツデー運動、台湾の#顏色不分性別といった、ピンクにまつわるジェンダー事例を取り上げた。
 第三章第一節では、幼児の色彩選好調査を参考に、色分けによるジェンダー作用と役割について考察した。幼稚園や保育園では、色分けによって子どもたちを集団統制させ、周りの人々やメディアの影響によって、ジェンダーイメージが刷り込まれていくのであった。第二節では日本のジェンダー・ギャップ問題を、自民党女性局やピンクカラージョブ、テレビアニメの観点から考察した。第三節では、ジェンダー格差の少ないスウェーデンのジェンダー・ニュートラルな教育や、欧米の玩具店の性別ラベルをなくす取り組みについて考察した。第四節では、ジェンダー平等を求める「HeForShe」を取り上げた。シンボルカラーはマゼンタであり、力強いピンクで決起を呼びかけているのであった。
 性別による色分けや、ピンクをテーマに様々な事例を掘り下げいくことにより、色の歴史だけではなく、現在のジェンダー観念の成立過程を学ぶことができた。ピンクは時代によって、文化の形態、嗜好によって多様な意味を持ち、色のジェンダーイメージは今も昔も商業的に作られていた。ピンクは単なる色としてはまとめることのできない、「社会的な色」であると考えられるのである。