日中相互イメージの形成とメディア

加藤千浩

銭ゼミ

 このテーマに決めた理由は、食料品や衣服などの機能や役割は全く同じであるのに、生産国によって購買意欲が異なることに疑問を感じたからです。商品を購入する際、生産国の表示を見て、日本製だから安心、中国製だから買わないと思う人が少なからず存在します。この原因を探るべく、国のイメージ形成について日本と中国を対象に、卒業論文を執筆しました。
本論文では、日中国交正常化から現代までの日中相互イメージの変化を明らかにし、イメージの形成の要因はメディアであることを論じました。さらに日本と中国のメディア発達の違いや、情報化社会を生きる私たちにとって、今後必要なメディアとの向き合い方について考察しました。
 第一章では、日中国交正常化から現代までの日中相互イメージの変化を論じました。1970年代から2000年代までを10年ごとに区切り、対中対日感情の変化を可視化しました。日中国交正常化後の1970年代は良好な関係でしたが、1980年代後半から歴史教科書問題や靖国問題、冷凍餃子事件や尖閣問題など度重なる緊張により、急激に対中対日感情は悪化を見せました。これにより政府間の摩擦は生じましたが、民間企業同士の協力体制は継続したことから、政府間の動向がイメージの形成に強く影響を与えていると考えました。さらに、こうした政府間の動向や、民間同士のコミュニティの情報収集源は、主にメディアであると考察しました。
 第二章では、中国と日本それぞれのメディア発達の経緯について、国内情勢との関係も踏まえて論じました。まず、中国メディアを文化大革命期、改革開放以降、そして現代へ時系列に並べ、中国メディア発達の経緯を探りました。建国以来のメディアは、一貫して党と政府の「喉と舌」であると位置づけられ、党の方針を宣伝する代弁者としか扱われていません。そんな中でもインターネットの普及により、中国のネットユーザー数は2020年6月末時点で9億3984万人に達しました。中国国民にとってインターネットは、情報を入手するうえで最も重要な存在になっています。一方で日本は、活字からインターネットへ段階を踏んで発達していきました。中国と日本では、メディアの認識が異なることから、中国は党と政府の宣伝機関であるのに対し、日本では情報伝達をするための媒介物であると認識されていることを明らかにしました。昨今ではスマートフォンの普及により、個人の意見が社会を左右するようになりました。ここではフェイクニュースの具体例を挙げ、イメージ形成にはメディアが関係していることを考察しました。
 第三章では、メディアの中でもインターネットとスマートフォンが与える影響力について論じました。インターネットは私たちの生活に革命を起こし、簡単に海外の人とコミュニケーションがとれるようになりました。それだけではなく、個人の意見を自由に述べるサイトを作ることで、仮想空間という新たなコミュニティが誕生しました。また、スマートフォンの登場と普及により、私たちは手のひらで世界を見て、知ることができるようになったことで、新たな生活様式が加わりました。現代人にとってスマートフォンは、個人の一部であり自己表現の道具であります。そのスマートフォンを利用してできること、そして第一章から述べているイメージ形成にどのような影響を与えているのか、この章で明らかにしました。加えて、自身で行ったアンケート調査結果を基に、今後のメディアとの向き合い方について考察しました。
 卒業論文を執筆するに当たり、指導教員の銭先生からは多大な助言を賜わりました。また、アンケート調査にご協力いただいた皆さまのおかげで、卒業論文を完成することができました。本当にありがとうございました。