アメリカにおける信仰心と政治について―9.11後のアメリカ人の愛国心の変容を中心に

本多日和

高田ゼミ

 本論文では、アメリカにおける信仰心と政治についてレーガン政権以降の歴代共和党大統領を取り上げながら、リベラルと保守の対立構造を概観し、いかに信仰心がアメリカにおいて重要な役割を果たしているのかについて論じている。
1980年代の宗教右派の政治参加以降、関係を強めた共和党政権と宗教右派、とりわけ福音派を取り上げる。また、社会的影響を受け高まるという愛国心がどのようにつくられていったのかについて明らかにする。そして、国家危機である9.11同時多発テロを受け愛国心が高まった人々がいた一方で、宗教や人種などの観点から敵とみなされた人々がいることから、アメリカ社会における排除の動きについて述べていく。さらに、トランプ現象が起きた背景から2020年大統領選までを振り返る。この研究により社会的に創られた愛国心について理解し、アメリカにおける信仰心と政治について明らかにすることを目的とする。
 第1章では、社会的影響による愛国心形成と宗教右派の政治参加について論述する。まず、愛国心とは何かについて言及し、どのようにして愛国心は高められるのか、そして愛国的であるということがなぜ政治的に有利であるとされるのかについて論じていく。さらに、1980年代以降共和党との結びつきを確実なものにした宗教右派の存在がいかに政治に影響を与えたのかについて、プロテスタント分裂にさかのぼり、福音派と宗教右派運動の歴史と1960年から1970年にかけて進んだリベラル化の歴史を背景に交えながら論じる。
 第2章では、国家危機といえる9.11後のアメリカ社会における愛国心の変容について論述する。ここでは、当時のブッシュ政権を取り上げる。「共通の敵」に対する「対テロ戦争」をブッシュは訴え、統合のための「愛国者教育」を行うことで、愛国心が高まった。また、政策レベル市民の草の根レベルで拡大した愛国心高揚について取り上げる。一方でアメリカ的でないとみなされ、排除される人々がいたことから、「愛国者教育」は分断を生んだといえる。
 第3章では、第45代アメリカ大統領のトランプ誕生によるトランプ現象を取り上げる。世界を驚かせ当選したトランプは一体なぜ大統領になれたのか。理解しがたい発言を繰り返しながらも現状を打破する「ヒーロー」として登場し、一定の支持層を抱えるトランプの愛国主義的な政策から、「強いアメリカ」を標榜したレーガンや「自国第一主義」を訴えたブッシュと絡めながら論じていく。さらに、2020年大統領選挙結果からアメリカの現実と課題について論述していく。 このように、アメリカにおいてあまりにも信仰心が政治に影響を及ぼしており、差別が生まれるのも宗教や信仰心であるし、政治の場でも信仰心は大きく影響を与えている。これらをふまえた上で、レーガン政権期の保守再興により影響力が増した宗教右派の存在、そして9.11後の愛国心の変容を取り上げることで、信仰心がアメリカ社会において重要であり、時に分断をもたらすものであるということを明らかにしていく。