「かわいい」からみる日本と台湾の比較文化

井上史菜

赤松ゼミ

本稿では、日本のポップカルチャーの一つである「かわいい」文化について、「かわいい」の言葉の意味や来歴を探ることで、日本における「かわいい」の特質を明らかにした。さらに、日本と同様に「かわいい」文化が根付いているのではないかと感じた、台湾における「かわいい」の在り方を日本と比較しながら分析することで、そこからみえる文化の違いを考察した。
第1章では、「かわいい」の特質を先行研究や辞書をもとに辿ってきた。「かわいい」が どのように定義されているのかを整理し、「かわいい」の歴史を辿ることで、「かわいい」 は古くから日本に存在する言葉であることが確認できた。そして、「かわいい」の表記に 着目し、記号的特徴や外国語の「かわいい」の意味をもつ単語と比較することで、「かわいい」は日本独自の美的表現を持つ言葉であり、唯一無二の表現言語でもあるという特質が見られた。
第2章では、「かわいい」がどのような場面や文脈で用いられているのかを探った。表記言語に着目し、Instagramで「#かわいい」「#カワイイ」「#kawaii」「#可愛」と検索した場合に、表示される写真を比較することで、各語の記号的特徴と意味を比較した結果、「#かわいい」「#カワイイ」と「#可愛」にはペットなどが表れる同質性が見られたが、「#kawaii」は「日本」そのものの記号となっていることも明らかになった。また、日本の「かわいい」の歴史を辿りながら日本における「かわいい」の在り方を分析し、特質を明らかにした。
第3章では、台湾での「かわいい」の在り方を分析し、使われ方を探ることで日本人と 台湾人の「かわいい」の発信方法に共通点と相違点を確認した。台湾では、政治家のキャラクターグッズが、「カワイイ」によって具象化され、自分自身のナショナルアイデンティティを形成していっている例を取り上げた。日本の「かわいい」文化の変遷を辿り、特質を探ることで日本での「かわいい」の在り方と、台湾での「かわいい」の在り方について分析し、文化の違いについて考察した。「かわいい」という形容詞には、多種多様な使われ方が存在していたが、一貫して「かわいい」でしか言い表せない日本独自の表現言語として存在していた。そして、「かわいい」は、受発信の循環により、「かわいい」の形を変化させながら広がりを見せている。 そして、日本と台湾とでそれぞれの「かわいい」の在り方について分析することで、共通の文化として、「かわいい」文化が存在していることが確認できた。しかしながら、その「かわいい」の在り方には共通点がありながらも、相違点も存在した。同じ「かわいい」でも受容のされ方が異なるのは、「かわいい」物を身に付けることで「かわいい」を表現する日本と「かわいい」を自ら実践し表現する台湾との文化の違いであると考える。
共通点は、両国ともに「かわいい」と感じる対象を主張する際に用いて「かわいい」を表現している点と、両国において受け身になるだけではなく海外の文化を受け入れながらも、固有の文化を生み出し、新たな「かわいい」を生産している点が挙げられる。これは「かわいい」だけではなく、国の文化にも同じことが言えるだろう。異文化を受け入れる力こそが、日本と台湾の両国にとって自国の色を出す一つの力であるのだろうと考える。
「かわいい」の変遷と同様に、現代社会は凄まじいスピード感を持って進み、様々なものの世界への行き来が激しい。この激流に流されることなく進むためには、異文化を受け入れながら、自分なりの形を生み出すことが重要であると感じた。