外国人への言語教育からみる社会統合のあり方
―日本とドイツを比較して―

横山千佳

久保ゼミ

 近年、日本国内の在留外国人は増加傾向である。そのため日本と異なる文化や価値観を持つ外国人と接する機会も多くなってきている。そうした中、日本では多文化共生の推進のために様々な取り組みが地方自治体やボランティアを中心に行われている。しかし自治体によって活動規模や取り組み内容が異なり、ボランティアが提供する教育に通う機会に恵まれない人がおり、多文化共生の取り組みが実を結ばないのが現状である。
 一方日本国外に目を向けてみると、多くの移民が流入するドイツでは国が主体となって在留外国人に対する教育や、多文化共生と社会統合に向けた取り組みを行っている。特に外国人へのドイツ語教育によって外国人がドイツ社会に参加しやすくするための施策が多くあるが、日本より進んだドイツでもうまくいかなかった事例や失敗と言われているもの、今後の課題などが多い。このように、社会統合や多文化共生を推進させていくための活動は非常に難しく、どのような取り組みが正解なのかも定かではない。言語教育が社会に溶け込むための手段とされているが、実際のプログラムへの参加・不参加で外国人の生活がどのように変わっていくのかなど、疑問は多い。どのような言語教育の取り組みが社会統合や多文化共生に資するのかを考察する。
  第1章では、「多文化共生」「社会統合」の概念を提示し、それぞれの概念の違いを明らかにした。本論文では、社会統合の定義を「多様な文化、アイデンティティを相互理解し、社会で共に生きていくために支援しながら障壁のない社会を形成すること」とした。この定義を本論文での言語教育をとおした社会統合を考察するための軸とする。第2章では、日本の外国人に対する言語教育の観点から、外国人の流入に合わせた言語教育の取り組みを時系列に沿って、留学生への教育、研修生やビジネスマンへの教育、定住者に対する教育の3点に分けて提示した。さらに、日本の外国人に対する言語教育の地域社会の取り組みとして、横浜市、川崎市、総社市の事例を挙げ、日本での言語教育の成果や今後改善すべき課題を明らかにした。第3章では比較対象としてドイツ社会の言語教育について取り上げた。ドイツの移民政策の成り立ちの背景について明らかにし、社会統合の取り組みについて述べた。また、そこから見えてくる社会と移民の間で必要となる繋がり方について整理した。第4章では、日本とドイツの言語教育を比較し社会統合の定義と照らし合わせて評価した。さらに、第3章で提示した移民と社会の位置関係の観点から言語教育のあり方について考察した。また、日本は「地域レベル」で、ドイツは「国家レベル」で言語教育を行うという違いがみられるが、それぞれに大きな課題が残っていたことが明らかになった。その課題を見つめ直し、社会統合を目指す中で必要となる言語教育の機能をついて考察した。