サバティカル報告1

パリ滞在

武田千夏

 2024年9月よりサバティカルをいただき、久しぶりにパリで暮らす機会に恵まれた。旅行で短期の滞在をすることはあっても、長期の滞在は二十年ぶりのことである。かつて慣れ親しんだ街であるが、今回パリが大きく変貌したことを実感した。
 まず何より驚いたのは、現在の「日本ブーム」である。街角の会話や店先の商品から、フランス人が日本に親しみを寄せている空気がひしひしと伝わってきた。二十年前には想像もしなかった風景だ。
 そして最も劇的に変わったのは「道路」だった。自転車、歩行者、自動車――それぞれに専用のレーンが設けられ、信号も別々に設置されている。一度道を渡るだけでも複数の信号を待たされ、どの信号を見ればよいのか迷うこともしばしばだった。気づかず自転車専用レーンを歩いてしまい、サイクリストに注意されたこともある。バスで移動中には、自転車と自動車の事故現場に居合わせてしまった。
 道の多くに段差があるのも相変わらずで、私はとうとうバス停の前で転んでしまい、救急車で搬送される羽目になった。ところが、バスの運転手は驚くほど親切で、救急車の中では救急隊員が「日本ではどうなんだい?」と興味津々に話しかけてきた。混乱の中にも、どこかフランスらしい温かさを感じることができた。
 母校にも足を運んでみた。かつては誰でも自由に出入りできる開放的なキャンパスだったが、近年のテロの影響もあり、現在は身分証明書がないと入構できない。新しいキャンパスや整備された庭のおかげで、以前とは見違えるほど洗練された佇まいになっていた。
 日本の影響かどうかはわからないが、全国的にトイレを清潔に保とうという意識も高まっていた。しかも、男女の区別が薄れ、大学などでは自然な形で共用のトイレが普及していた。一方、フランス国立図書館では一時間ごとの清掃が入るため、トイレが立ち入り禁止になっていることが多かった。女性が男性トイレに入ることが多く、男性が入りづらそうに外で待っている光景が印象的だった。
 そして、フランス革命を専門とする私にとって何より興味深かったのは、舗道に押されていた白いスタンプである。そこには九月初旬に予定された全国ストライキの日時が記されていた。組合の力が弱まりつつある現在、こうして道に直接スタンプを押して人々にストを呼びかけているのだ。都市の景観の中に、革命期から続くフランスの伝統が静かに息づいているように感じられた。
 久しぶりの長期滞在で見つけたパリは、変わったようでいて、やはり変わらない感じもした。ソルボンヌの近くを歩いていると、自分が語学留学をした頃のことをまざまざと思い出した。新しさと伝統が同居するこの街に戻ることで、今後の自分の人生について考える時間を持つことができた。このような機会を与えてくださった同僚、学院に対して深く感謝申し上げたい。