石川ゼミ

日本と台湾の働く女性の比較

小林悠香

 本論文の目的は、日本と台湾の女性の働き方や関連する法制度、性別役割分業意識、社会的背景などを比較し、それらが働き方にどのような影響を与えているのかを明らかにすることである。さらに、台湾で中国語教師として働く女性2名に実施したインタビューを先行研究の事例と比較し、両国の女性の抱える仕事や家庭の課題を考察する。最終的には、日本と台湾が今後どのように女性の社会進出や働きやすい社会を実現するべきかを検討する。
 第一章では、戦後から現代に至るまでの日本の女性労働を、社会の動向や法制度、職業構造、性別役割分業意識、労働力率の観点から検討した。経済発展とともに女性の労働参加が進展し法制度も整備されたが、依然として家庭責任の多くが女性に偏り、非正規雇用の増加により労働市場では不安定な地位に置かれている。また、管理職割合や賃金格差などの指標から、社会意識の変容が制度進展に追いついていない状況が明らかとなった。
 第二章では、台湾の女性労働を日本と同様の視点から考察した。1949年に国民党政府が台湾に移転し急速な政治・経済発展を経験し、また民主化や女性運動の影響を受け女性労働や法制度の整備は、現代に至るまで大きく前進した。労働参加率の上昇や高等教育女性の増加、管理職割合の向上は、女性のキャリア形成が社会に定着しつつあることを示している。しかし、家庭内負担の偏りや、女性が集中しやすい産業における雇用の脆弱性などの構造的課題は残されている。
 第三章では、台湾で働く中国語教師の女性2名を対象として実施したインタビューの結果を紹介し、先行研究の事例と比較することで日本と台湾の女性が抱える仕事と家庭の課題を明らかにした。
 以上の分析から、日台双方において法制度の整備だけでは就業継続を十分に支えられておらず、社会文化的要因や性別役割分業意識が大きな影響を及ぼしていることが明らかとなった。日本では制度利用やキャリア形成の阻害する要因となり、台湾では家族の支持が得られるものの、雇用制度の脆弱さが別の障害として存在している。両国は異なる形で課題を抱えているものの、「制度」と「文化」の二層構造が女性労働を規定している点が共通している。
 今後の展望として、日本は家庭と職場双方で性別役割分業意識の緩和に取り組み、制度利用やキャリア形成の支持を得られる環境を整えていく必要がある。台湾のように教育現場から徐々にジェンダー平等の理念を広め、長期的に社会意識の変容を図る取り組みも有効だろう。一方、台湾では雇用制度の脆弱性に対して、政府だけでなく現場レベルでの改善案が求められる。加えて、家庭内の責任の平等化や育児休業制度後の復帰支援など、制度と文化の両面から女性の就業継続を支える仕組みの強化が必要とされる。