本研究は、20世紀初頭から現代に至るまでの映画における女性像の描かれ方を通じて、ジェンダー観の変遷と社会意識の変化を探るものである。映画は、その時代の社会的価値観や文化的背景を映し出す鏡であり、とりわけ女性の描かれ方には、その時代ごとのジェンダー観や社会構造が色濃く反映されている。映画を通じて女性像の変遷をたどることは、スクリーンに登場する女性キャラクターは単なる物語の登場人物にとどまらず、時に理想の女性像や社会が求める役割モデルとしての機能を果たしてきた。そのため、映画における女性描写を検証することは、現代社会におけるジェンダー観を理解し、問い直すための重要な手がかりとなる。
筆者は幼少期から映画に親しんできたが、成長するにつれ、映画に登場する女性キャラクターの描かれ方に対し、違和感を覚えるようになった。多くの作品において、女性は男性の補完的存在として描かれ、彼女たちの物語は恋愛や家庭といった私的領域に収束する傾向が強い。また、アクション映画や政治的ドラマといったジャンルでは、女性が主導的立場を担うことが少なく、ジェンダーに基づく役割の固定化が顕著である。こうした疑問から出発し、本研究では、映画に映し出される女性像の限界と可能性を検証し、映像メディアが再生産するジェンダー観を批判的に読み解くことを目的とする。
理論的枠組みとしては、ローラ・マルヴィの「視覚と語りの快楽」やモリー・ハスケルの「崇拝からレイプへ」などのフェミニズム映画理論を採用する。これらの理論を基盤に20世紀初頭から現代に至るまでの各時代を代表する映画作品を分析対象とし、その文化的・社会的背景との関連性を読み解いていく。分析にあたっては、以下の五つの視点を重視する。第一に、「語りの視点と視線の構造」に注目し、物語が誰の視点から語られているのか、また観客の視線がどのように操作されているかを考察する。第二に、「女性の能動性と自己決定権」の有無を確認し、女性キャラクターがどの程度主体的に行動しているかを検証する。第三に、「社会背景とのリンク」として、作品の制作時期における社会的・文化的文脈を反映しているかを探る。第四に、「理想の女性像の変容」を追い、映画が提示する女性像が時代とともにどのように変遷してきたかを明らかにする。第五に、「多様性と交差性の視点」から、人種・階級・セクシュアリティといった交差する要因が女性キャラクターの描写にどう関与しているかを分析する。
これらの多角的視点に基づき、映画というメディアがジェンダーにどのように関与し、再生産・変容を促してきたのかを明らかにすることが本研究の目的である。映画は「社会の鏡」であると同時に、「未来の予兆」としての役割も担っており、女性像の変遷を追うことは、私たちがどのような社会を生き、そしてこれからどのような社会を目指すべきかを考える重要な手がかりとなるものである。