本研究は、SNS上で行われている2010年代以降の第4波からのハッシュタグ運動を含むフェミニズム運動と女性がステレオタイプ化された広告について着目し、アメリカ・アジア2つの地域を比較することで、価値観の違いや社会的影響、女性像に対する規範や変化などがどのように可視化されているのかなどについて明らかにすることを目的とする。第1章では、ハッシュタグ運動が広がるために欠かせないSNSの特性、第4波フェミニズムや重要な概念であるインターセクショナリティの定義を明らかにした上で、アメリカで行われた第2章とも関連のあるボディ・ポジティブ運動、「ウィメンズマーチ」や「#MeToo」運動について論じている。アメリカでは、SNS上の共感や連帯が社会運動を引き起こし、社会的議論を引き起こしていたことを明らかにした。また、アジアで行われた「#MeToo」運動、「#KuToo」運動や「ウィメンズマーチ東京」について論じ、日本・タイでのハッシュタグ運動はアメリカほどの広がりを見せていないこと、一方で韓国は歴史的背景からアメリカ同様にハッシュタグ運動が広まっていたことを明らかにした。
第2章では、アメリカ・アジアの広告について比較し、Doveの広告などを取り上げ論じている。国や地域によって異なる広告表象の傾向や、そこで描かれる女性像の違いを明らかにした。アメリカでは、ふくよかな体型である「プラスサイズモデル」の女性が発信を行っていたり、ありのままの姿を肯定するメッセージが強調されている。しかし、脱毛広告では白人モデルが起用されるなど白い肌こそが美しいといった価値観が依然として残っていることを明らかにした。日本では、Doveの「#カワイイに正解なんてない」という広告が、画一的な美の基準を逆に強調しているとして批判を集めた。また、日本の化粧品広告では白人モデルが多用され、白い肌を理想とする価値観が強く示されていることを明らかにした。韓国では、多様なルーツを持つ韓国人や日本人など、様々なアジア系モデルが起用され、小麦肌のモデルも起用するなど、多様性を広げた表現が見られ、日本やアメリカとは対照的であることを明らかにした。
本研究で重要なのは、ハッシュタグ運動や広告表象の社会的影響は、地域や国ごとの文化・社会構造によって大きく異なるということである。アメリカでは、フェミニズム運動がSNSを通じて議論を活性化させ、人々の意識変容に起因した。同じく、韓国はSNS上での議論が活発であり、フェミニズム運動への関心の高まりと結びつくことで、「#MeToo」運動や「#私はフェミニストだ宣言」運動などが行われていた。これに対し、同じアジアでも日本やタイでは、炎上リスクや社会規範などの文化的背景などが影響し、個々の声が大規模な社会運動へと結びつきにくい傾向ことを明らかにした。
また、広告表象に関しても、各国の価値観が可視化されていた。アメリカのDoveの広告が多様な身体・人種を肯定するキャンペーンを進める一方で、白人中心の美意識が依然として残っているように、新しい表現が広がる一方で昔からの価値観も残っていた。日本では、美白や美しい顔であるための条件といった画一的基準が提示されていた。一方、韓国ではルーツを持つモデルや小麦肌の起用など、多様化が進みつつあり、変化していることを明らかにした。これらの違いは、SNS上の運動や広告が地域的・国別の文化や価値観と密接に結びついていることを示していると考える。SNS上のフェミニズム運動と広告表象は、単なる情報発信の場や企業戦略にとどまらず、それぞれの社会に根付く価値観やジェンダー規範を表すものとして機能していることが明らかとなった。つまり、SNSと広告がジェンダー議論を理解するうえで不可欠な分析対象であることを示している。