佐藤実ゼミ

元三大師御籤における大吉について

橋本彩世

 本稿は、比叡山延暦寺にて頒布されている、元三大師御籤の大吉についての分析である。
 まず第1章では占いと元三大師御籤の来歴について調べた。古代中国では骨卜・ 亀卜、周代には蓍草を用いる易占い(易筮)と呼ばれる占いが発展した。易筮では、八卦が単なる記号なのではなく、 自然界のさまざまな現象を象徴しているということが分かった。八卦の象徴語については、 自然物や自然現象、さらには家族との対応関係が整理されている。その精華は『易経』という書としてまとめられ、儒教の経典となるが、この易の占断が韻文で書かれている点に注目。日本の漢詩形式のおみくじはもとより、和歌によるおみくじも韻文で書かれていることから『易経』の影響を受けていると考えられるからである。
 そもそも日本のおみくじは中国の、遅くとも13世紀には作られていた天竺霊籤と呼ばれるおみくじがベースになっているといわれる。この天竺霊籤は日本に伝わり、天台宗中興の祖である元三大師良源の名を冠した形で「元三大師御籤」として江戸時代に広く流通して現在に至っている。
 第2章では比叡山延暦寺で印刷された元三大師御籤をテキストにして、全100本のおみくじの中で17本存在する大吉について、籤詩・和解・解の内容を検討し、それらと挿絵の関係について考察した。その結果、17本中11本において挿絵が籤詩の内容を直接的または部分的に反映しており、特に起句・承句よりも転句・結句に対応する事が多いことが判明した。
 また、籤詩には対応していないものの、解の部分を挿絵にしたと考えられるものが複数確認され、その数は17本中4本であった。
 一方、籤詩・解いずれとも関連しないと判断される挿絵は17本中2本のみであった。これらのことから、比叡山の元三大師御籤の挿絵は必ずしも籤詩を表現するためのものではなく、和解や解を含む全体を加味しながら制作された可能性が高いことがわかった。
 以上の分析から、元三大師御籤は単なる「籤詩+絵」という構成ではなく、籤詩・和解・聖意・解説・挿絵が絡み合い、物語性の豊かな宗教的な籤として理解されるべきであることが明らかとなった。さらに、大吉の描写は「未来に向けての前向きな励まし」と「将来のための注意喚起」が併存する特徴をもっている。
 現在、日本で多くみられる現代化されたおみくじと比較すると、元三大師御籤は前近代のおみくじ文化の特色を色濃く伝える貴重な資料であり、漢詩みくじ研究における重要な基礎資料として位置づけられる。