本研究の大きな目標は、実際には過去に戻ることが不可能であり、非日常的な行為が作品の中で描かれているにもかかわらず、なぜ人々が『バックトゥザフューチャー』や『アバウトタイム』といった物語に惹かれるのかを探ることである。本発表では、その問いに迫るため、タイムトラベル作品における「過去に戻る理由」の変遷を分析し、各時代の価値観や人間の欲望・不安を明らかにすることを目的とした。特に2020年代以降の作品に注目し、現代において過去へ目を向ける物語が増えている背景を考察した。
中間報告会では、第二章第一節「時間遡行の手法の変遷」と第四章第一節「現代におけるタイムトラベルの表現」に焦点を当てた。
第二章では、1980年代から2020年代までの作品を対象に、時間遡行の方法の変化を整理した。1980〜1990年代はタイムマシンなど科学技術型の手法が主流で、社会全体を救う使命が描かれることが多かった。2000〜2010年代には後悔や人間関係の修復といった個人的動機が前面化し、心理的・感情的な時間遡行が増加した。2020年代以降は、睡眠や死など日常的な行為を契機とする偶発型やループ型が目立ち、動機そのものが物語の中で生成される構造が多く見られるようになった。こうした変化は社会背景や人々の時間意識の変化と密接に結びついている。
第四章では、2020年代以降の作品における現代的表現を取り上げた。近年の作品では、過去改変よりも「自己理解」や「他者との関係の再構築」を重視する傾向が強い。コロナ禍で共有された「同じ日常が繰り返される感覚」や、多様性・働き方への関心が背景にあり、タイムトラベルは現代社会の不安や欲望を映し出す装置となっている。
以上の考察を踏まえると、私たちがタイムトラベル作品に惹かれる理由は、過去に戻ることが不可能だからこそ、その不可能性を物語の中で体験し、自己や社会を新たな視点から捉え直す契機を得られるからだと言える。
卒業論文では、肯定的側面と危うさを併せ持つタイムトラベルの二面性を明らかにし、この二面性を理解したうえで作品を楽しむことが、自分らしく生きるためのきっかけになると結論付けた。